プロ野球には「体の前後を使う」という言い回しがある。バッテリー側から打者に対して使われる表現だ。簡単に言えば打者の内角を攻めて腰を引かせ、外角の球で打ち取る技術、テクニックのことである。

指揮官・藤川球児のいう「プロテクター」に一考の余地があるのはもちろんだ。それでも打者が“完全武装”すれば、こういう技術は意味をなさなくなるかもしれない。さらに、別の問題もある。

投手側の防御だ。8回に3番手・及川雅貴が「ピッチャー返し」の打球を受け、緊張が走った。幸い大事には至らなかったが、昨季、石井大智が頭部に打球を受けたことを思い出した虎党もいるのではないか。

死球ほどの頻度ではないかもしれないが、ときに見かける場面だ。では投手もヘルメットや防具を付ければいいのか。それで投げられるのか、パフォーマンスを発揮できるのか。そんな側面があるのも事実だ。死球で負傷するのは本当に不運なことだし、選手の安全を向上させるのは重要だが防具だけの問題ではないかもしれない。

阪神の快勝を見ながらそんなことを思っていたのは森下翔太の表情に接したからだ。8月29日の巨人戦で死球を受け、左前腕部を打撲。同30日の試合は守備だけだった森下翔太がこの日、2試合ぶりにスタメン復帰した。

緊張が走ったのは9回か。リランソの球が頭部付近に抜けた。これを避け、転倒した森下。周囲が騒がしくなるのをよそに一瞬「あぶね!」という感じで首をすくめたものの、その後は余裕の表情。そして打席に入りなおし、二塁打を放ったのである。

落ち着いている、と思った。7回に12球を粘って四球を選んだときにもそれを感じた。6回に本塁打王争いのライバル佐藤輝明がトップに並ぶ31号を放った直後だけに強引にいくか、と思ったがそうではなかったのである。勝利後には「出るからには全力でやるだけっていうところ」と話した。

佐藤も30日巨人戦では右手に今季2個目の死球を受けている。それについて「それはしょうがない。こっちも対策していくだけです」と話した。そんな2人が主軸として君臨する阪神が頼もしいのだ。テレビで解説していた鳥谷敬(日刊スポーツ評論家)がこんなことを言っていた。「同じ本数でどちらも本塁打王になればいい」。同感である。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)