伝統の力は及ばなかった。大正、昭和、平成、令和の4元号出場の広島商は、岡山学芸館との隣県対決にまさかの逆転負けを喫した。

それでも伝統の“広商野球”を象徴する小技に加え、6番山路祥都捕手(3年)が本塁打を放つ大技も見せた。昭和最後の甲子園覇者となった88年以来31年ぶりとなる夏勝利はならなかったが、甲子園につめかけたオールドファンに「広商」健在をアピールした。

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終盤での逆転負けに広島商・荒谷忠勝監督(43)は悔しさをかみしめた。「勝つことを目標にしてきたが、結果を残すことができなかった。残念」。1点リードの8回2死一、三塁で、左翼手杉山の頭上を越える適時二塁打を浴び逆転された。杉山は「最初は正面にボールが来ると思ったが、風に乗ってボールが飛んでいった」。甲子園特有の浜風が立ちふさがり、昭和最後の甲子園覇者となった88年以来31年ぶりとなる夏の勝利が消えた。

それでも自分たちの野球を貫いた。杉山は伝統の“広商野球”を体現していた。1点を追う2回、1死一、三塁から伝統の小技を利かせたセーフティースクイズを成功させ同点に追いついた。

その杉山の活躍に呼応したかのように、1-1の同点で迎えた5回、先頭打者の山路が一時勝ち越しとなる左翼へのソロアーチを放った。「ホームランは正直入るとは思っていなかった。入ったのは応援してくれた皆さんのおかげ」と謙虚に話した。小技に長打という新たな伝統を築いた1本に満員の三塁側スタンドが大声援で応えた。山路の本塁打に荒谷監督は「1発でチームの力みがとれた」と絶賛した。

同校は04年夏に甲子園出場を果たしているが、その後は広島大会を勝ち上がることができずにいた。荒谷監督は「彼らががんばって15年という扉を開けてくれた」と称賛し「OBや声援に勇気づけられて選手たちはがんばった。高校野球は教育の一環。これからの人生で生かしてほしい」と語った。「4元号出場組」の4校はすべて初戦敗退。令和1勝は来年以降に持ち越されたが、必ずや広島商が一番乗りを果たす。【南谷竜則】