センバツに続き、夏の甲子園も戦後初の中止が決定した。各所に及ぼす影響は計り知れない。「あゝ甲子園」と題し、人々の思いとともに紹介していく。

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夏の甲子園中止に、東学大国際中教校(東京)の羽仁高滉(たから)主将(3年)は「甲子園とは無縁の野球生活なので、自分の野球に対する姿勢は、あまり変化はないです」と打ち明けた。東京学芸大の付属中高一貫校。進学校で、早くも2年夏の大会が終わってから受験勉強に本腰を入れた。自粛生活でも朝6時に起き、7時過ぎから机に向かう。休校措置によるオンライン授業を含め、毎日12~13時間は勉強する。

目標は甲子園ではなく、夏の西東京大会1勝。だからといって、決して野球は片手間ではない。日が落ちてから、体幹トレ、素振り、ランニングと、雨の日も欠かさず取り組む。勉強中も、時に足を肩幅大に広げて立つ。マンガ「MAJOR」に出てくる“大文字焼き”のトレーニングで下半身を鍛え、新たに取り組む捕手に生かす。

13年の創部以来、夏は2年前の1勝が唯一。部員は今年は9人ぎりぎりだ。自分たちの実力は分かっている。そんな羽仁でも、甲子園中止のニュースに「無縁でも、やっぱり絶対に意識しちゃう存在。ああ、中止になったんだと悲しかった」。さらに「同学年で憧れている選手がいる。その選手が甲子園で活躍するのを見られないのは純粋に残念」と思いやった。同じ西東京の東海大菅生・杉崎成内野手(3年)が憧れだ。

17年から指揮を執る池田正嗣監督(51)は慶応高出身。就任直後は、甲子園を目指すのが当たり前だった自身の青春時代と比べ「こんな野球部があるんだ」と驚いた。だが、徐々に「弱い者が勝つには」と考えるようになった。昨年、都内の国立高校5校で「国立リーグ」を結成。切磋琢磨(せっさたくま)する。活動休止中のこの間も、リーグの盟友・筑波大駒場の朝木監督のアイデアを借り、部員に定期的に野球クイズを送信。セオリーを問い、頭から鍛える。

現実的に、甲子園を目指していない球児は多いのかもしれない。だが、たとえ力の差はあっても「勝ちたい」熱量は等しい。2年前の夏1勝。ウイニングボールをキャッチしたのは、当時1年生の左翼羽仁だった。中学で野球を始めてから公式戦で初めて勝った。そして、まだ唯一の勝利は「野球をやってきて良かったと、心の底から思った瞬間」でもあった。級友たちが受験勉強に専念する中、葛藤があった。だが、コロナ禍で考える時間が増え「野球をやる目的」を確認できた。「最後の夏に1勝したい。野球をやってて良かったなと、終わりたい」。東京都高野連は7月11日開幕を目指している。集大成の夏が来る。【古川真弥】