大阪府内トップクラスの進学校である北野から、戦後初のプロ野球選手を狙う左腕がいる。長曽我部健太郎投手(3年)はまずは大学で実力を磨き、戦前の旧制北野中を出て東京セネタースなどで通算63勝と活躍したOBの浅岡三郎投手に続くつもりだ。

大阪・吹田市の山田中では大阪大会優勝メンバー。165センチと小柄だが、最速138キロの直球と多彩な変化球を操る。昨秋の大阪大会では5回戦進出。3年生となって春、夏は台風の目となるつもりだった。北野は甲子園に夏1回、春4回出場し、49年春には大阪の公立で唯一の全国制覇もしている古豪だが、52年春を最後に遠ざかっている。「2年半、甲子園を目標としてやってきたのに、中止で目指すことすらできないのは残念」とショックは隠せない。中学2年の秋に先輩たちが大阪秋季大会で8強入りしたのを見て「21世紀枠もあるかも」と1日10時間の猛勉強で北野に進学した。

新型コロナウイルスの感染拡大で部活動が停止になる前も、グラウンドの全面使用は水曜だけ。午後6時15分には完全下校など、短い練習時間、少ない練習場所で効率よくこなしてきた。休校中の現在は、1限65分の学校の時間割通りに自宅で学習し、空いた時間で個人練習を行う。中学時代から同じチームの有方智紀捕手(3年)が、ずっとキャッチボール相手になってくれた。「有方の存在は大きかった。マウンドでは2月中旬以降投げていない。マウンドから投げたくて仕方がない」。6月15日の部活動再開が待ち遠しい。

07年に神村学園(鹿児島)で甲子園出場経験があり、昨春から監督を務める渡辺健士監督(30)にも相談し、プロ野球選手を多く輩出している国立の筑波大への進学を目指している。「大学に行って、最終的にはプロになりたい」と夢は大きい。渡辺監督も「負けん気の強い投手。直球の球持ちがよく躍動感のある投球をする。レベルの高いところでやってほしい」と成長を期待する。マネジャー2人を含み3年生は8人。京大や医学系の大学を目指す部員もいる。「受験への不安が大きな部員もいるけれど、代替大会があれば2年半やってきたことを最後みんなで出し切りたい」。漫画家の手塚治虫や橋下徹元大阪府知事らを輩出した北野から、楽しみな存在がまた出てきそうな気配だ。【石橋隆雄】

◆長曽我部健太郎(ちょうそかべ・けんたろう)2003年(平15)4月1日生まれ。大阪・吹田市出身。山田中(軟式)3年夏は356チームが参加した大阪大会でダブルエースの1人として優勝に貢献。北野では1年秋からエース。最速138キロ。球種はスライダーとカーブ、チェンジアップ、フォーク。50メートル6秒2。遠投100メートル。165センチ、66キロ。左投げ左打ち。

◆浅岡三郎(あさおか・さぶろう)1914年(大3)2月8日生まれ、大阪府出身。旧制北野中(現北野高)からクラブチームの神戸ダイヤモンドを経て36年(昭11)に東京セネタース(40年のチーム名は翼)入り。41、42年は大洋軍と計7年間プレー。右横手投げの技巧派投手兼野手として活躍。通算213試合63勝58敗、防御率2・46。打撃は425試合出場で打率1割9分8厘、6本塁打、96打点。38年のプロ初本塁打が史上初の代打サヨナラ本塁打。39年10月20日名古屋戦では9回に同点ソロ、延長11回には勝ち越しソロと自ら2本塁打を放ち2-1の完投勝利。167センチ、56キロ。右投げ右打ち。