今季限りで現役を引退する巨人阿部慎之助捕手(40)が、強烈な存在感を見せつけた。「ありがとう慎之助」と銘打たれて行われた今季本拠地最終戦で、通算406号となる7号ソロを右翼スタンドへ。15年5月31日(楽天戦)以来1580日ぶりに先発出場した捕手では、中大の後輩、沢村との名場面も“再現”してみせた。東京ドームが感謝と祝福の拍手に包まれた。

打った瞬間-。なんて男だ。引退を表明した打者の打球ではない。安定した下半身。バットをきれいに投げ捨て、確信を持ってダイヤモンドを周回した。中川虎の146キロ内角球を当然とばかりに捉えた。233人目からプロ通算406号。スタンドもベンチも総立ちで1発に酔いしれた。「感謝しかないです。ありがとう。最高です」と全方向に深々と頭を下げた。

「4番 キャッチャー 阿部」。最高の場内アナウンスでムードが高まった。

自ら指名した先発マシソンと熟練のバッテリーを形成。1回無死一塁、ソトの2球目。153キロ直球のファウルチップが顔面付近に直撃した。一瞬、頭をぐらつかせた。あのときの…。悪夢がよぎるも、笑って、問題なしをアピールした。

2回は鬼の形相でマウンドへ向かった。打者ロペス。サインを出した2番手沢村が固まる。いったん、プレートを外させて、再びサインを出す。タイム。あのときの…。スタンドがざわつく。中大の後輩右腕に、右手を振り上げる。ポカリを覚悟する沢村を…たたくことなく「ありがとう」と右手でがっちり握手。“中大バッテリー”で名場面を再現した。

泣かない引退会見。この日の「ありがとう慎之助」と銘打たれた一戦でも、ミットで、バットで、キャラクターで、突き抜けた存在感を示した。「プロって、ファンがこうなったらいいな、ああなったらいいなという願いをかなえること。それがプロだと思っている」と19年間、いばらの道を百戦錬磨で駆け抜けてきた。試合後の優勝セレモニーで「これから本当に大事な勝負が残っています。そのためにまた、みなさんの声援を力にして、したい!」と約束。阿部からファンへ-。ありったけの「ありがとう」を最高の日本一で伝える。【為田聡史】

◆巨人阿部の「沢村ポカリ」VTR 12年10月28日、日本ハムとの日本シリーズ第2戦。捕手阿部が、緊張からか1回にけん制のサインを見落とした先発沢村の頭をマウンド上ではたいた。沢村は活を入れられた効果? もあり8回無失点と好投した。

◆巨人阿部ファウルチップVTR 15年6月6日ソフトバンク戦の9回、投手マシソンの直球をソフトバンク川島が打ったファウルがマスクに直撃。阿部は苦悶(くもん)の表情を浮かべひっくり返った。首痛で翌7日に出場選手登録を抹消。以降、捕手での出場はなかった。