西口文也 あと1人からまた…/2005・5・13

  • 9回2死から清水に本塁打を打たれた西口
  • 9回2死から本塁打を打たれうなだれる西口
  • 力投する西武西口

<西武6-1巨人>◇2005年5月13日◇インボイス西武ドーム

記録よりも記憶に残るとはこの男のことか-。15年前の2005年5月13日、西武西口文也投手があと1人のところで大記録を逃した。9回2死まで無安打無得点も巨人清水に本塁打を浴びた。同投手は02年にもロッテ戦で9回2死から安打を許し大記録を逃しており今回が2度目の「悲劇」となった。

ただ、このストーリーには続きがあった。約3カ月後の8月27日の楽天戦。今度は9回までパーフェクトに抑えながら延長10回に安打を許し完全試合を逃すという不運。日刊スポーツは「かわいそ過ぎ」という見出しで報じた。西口は「ノーヒッター」の称号を得ることなく15年に引退。通算182勝。現在は西武で投手コーチを務める。

【復刻記事】

西武西口文也投手(32)が、交流戦初となる歴史的記録を逃した。巨人を相手に9回2死まで1死球の無安打無得点試合。あと1人で清水に痛恨の右越え本塁打を浴びた。本塁打で記録を逃したのは史上初。西口は02年にもロッテ相手に9回2死までノーヒットノーランながら「あと1人」で記録を逃した。過去1人しかいない2度目の「あと1人」を味わったが、完ぺきに打たれた本塁打に表情はサバサバ。巨人に昨年日本一、交流戦単独1位の実力をまざまざと見せつけ、チームに4連勝と貯金「1」をもたらした。

その直後、ジーッとベンチを凝視した。「みんなどんな顔をしているんだろう」。打たれた西口だけが、人ごとだった。9回2死、カウント1-0。清水にソロ本塁打を被弾。ノーヒットノーランの夢も、完封もなくなった。「いやぁー、危ない、危ない」。ベンチに戻ると、記録を阻止した野手のようにつぶやいた。「あれだけ完ぺきに打たれて、すがすがしかったです。悔しいというより、ノーヒットノーランなんてやっていいのかなって気持ちでしたから」。ヒョウヒョウとした“西口語録”が、落胆を気遣う周囲から笑いを誘った。

二重の緊迫感が“西口ワールド”を作り上げた。2回1死から清原に死球を与え、清原が交代。3回、巨人先発マレンから報復ととれるような死球をカブレラが食らった。両軍ベンチが飛び出し、殺気立つ。並の投手なら、死球になりやすい内角は、投げにくくなる。それを見越した打者は、思い切り踏み込んでくる。そんな悪循環も、逆にベテランの武器になった。

緊迫した雰囲気に動じない淡々とした性格と、狙ったところに投げられる投球技術が引き立った。「ああいう展開だから、余計にしっかりと内角に投げないと。外ばかりなら投球の幅がなくなる」。危険を承知で内角を突けば、決め球でも軸球でもあり、この日58球を投じたスライダーの威力は倍増する。巨人打線は沈黙するしかなかった。

すべての環境が、バックアップしていた。縫い目の高い低反発球は、スライダーの曲がりを大きくした。マメができやすい体質だけに、新球導入は西口にとって厄介になるのではという声もあったが「いまのところ、全然、関係ないですね。どっちかといえば合っているよ」と雑音も封印。初の交流戦も「いろいろとデータがあると考えてしまう。そういうのがないから、投げやすいね」と、自分の投球だけに集中できた。

本塁打された球は、自分の投球を支えるスライダーだっただけに「甘かったね。ひざ元に落としてボールにしようと思ったんだけどね」と苦笑いした。「あと1人」で打たれたのは自身2度目。02年8月26日のロッテ戦で小坂にセンター前ヒットを打たれたが「投げる前には頭をよぎったよ」と再び苦笑いを浮かべた。

終わって見れば、1失点完投勝利。平凡な記録へ降格したが、その過程にファンは間違いなく酔った。「あと1人」を2度経験したのはプロ野球史上2人しかいない。「3度目はいないんでしょう? 日本シリーズの連敗記録(5連敗中)もタイだしね」と浮かべた不敵な笑みは、自信の表れだ。日本シリーズで連敗記録を伸ばすのも、常に優勝を狙うハイレベルなチームの先発ローテーションに入っていなければ成し得ない。力がなければ狙えない珍記録が2つ。西口の挑戦は続く。

▼西口が9回2死から清水に本塁打を打たれノーヒットノーランを逃した。あと1人でノーヒットノーランをフイにしたのは昨年の吉見(横浜)以来22度目。西口は02年8月26日ロッテ戦でも記録しており、9回2死から無安打を2度も逃したのは、83年8月20日近鉄戦、84年5月29日近鉄戦で記録した仁科(ロッテ)に次いで2人目の不運だ。これまであと1人から打たれたヒットは単打が16度、二塁打が5度で、本塁打は西口が初めてになる。西口は96年9月23日近鉄戦で1安打準完全試合、99年9月19日オリックス戦では8回2死まで無安打と、惜しい試合が結構ある。

<打った巨人清水は>

もう勘弁だ、と言わんばかりの意地のひと振りだった。西武西口に9回2死まで無安打無得点に抑えられ、絶体絶命の巨人打線。そんな窮地を1番清水が救った。カウント1-0からの2球目。甘く入った130キロスライダーを完ぺきなスイングで右翼スタンドに放り込んだ。一矢報いる4号ソロの前は、3打席で2三振。最後の最後で、西口の大記録を砕き「たまたまホームランになったけど、まあ、ホッとしたね」と話した。

巨人が前回、無安打無得点を喫したのは、02年8月1日のこと。その日、東京ドームで偉業を達成した中日川上に、最後に遊ゴロに打ち取られたのも清水だった。自らのそんな苦い思い出をも打ち砕くアーチに「2度目だからね。明日もあるんで、何とかしたかった。今日で終わりじゃないんでね」と、早くも完全に気持ちを切り替えた様子。自身にもチームにも、次につながる大事となった。

※記録、表記は当時のもの

<9回2死からノーヒットノーランを逃した投手=19年まで>

菊矢吉男(ライオン)40・3・30=対巨人

近藤 久(ライオン)40・6・16=対南海

梶岡忠義(阪神)48・7・8=対阪急

★田宮謙次郎(阪神)50・3・16=対国鉄

阿部八郎(阪急)50・7・20=対近鉄

★別所毅彦(巨人)52・6・15=対松竹

田沢芳夫(南海)57・6・24=対阪急

梶本隆夫(阪急)59・6・12=対近鉄

★村田元一(国鉄)62・7・12=対阪神

バッキー(阪神)63・5・26=対大洋

徳久利明(近鉄)63・6・16=対阪急

小山正明(東京)65・7・15=対阪急

安仁屋宗八(広島)66・7・31=対巨人

佐藤公博(中日)66・9・26=対巨人

上田二朗(阪神)73・7・1=対巨人

三沢 淳(中日)79・6・8=対巨人

仁科時成(ロッテ)83・8・20=対近鉄

仁科時成(ロッテ)84・5・29=対近鉄

チェコ(広島)96・5・18=対阪神

西口文也(西武)02・8・26=対ロッテ

吉見祐治(横浜)04・10・14=対広島

西口文也(西武)05・5・13=対巨人

多田野数人(日本ハム)09・7・10=対ロッテ

古谷拓哉(ロッテ)13・6・26=対オリックス

【注】★は9回2死までパーフェクト