静寂、拍手…。また静寂、拍手…の繰り返しだった。オリックス福田周平内野手(28)は2回の第2打席で観客の目を奪う“ワンマンショー”を開演した。

カウント1-1の3球目から、ファウル、ファウル、ファウル、ファウル、ファウル、ファウル、ファウル、ファウル…。1球見逃してボール、またファウル、ファウル、ファウル…。15球目は見逃してボール。16球目に、執念で食らいついた。

「必死です。甘い球が全然こなかったのでファウルに。なんとか最後に仕留められました」

計11球ファウルで粘り、16球目の147キロ直球をセンターへはじき返した。「打てば点が入る場面だった。(最後に)甘いところに来たから打てました」。2点を先制した直後の2回2死二、三塁。相手の精神をそぐ一打で、試合を優位に進めた。

直球、スライダー、カーブ、チェンジアップ、フォーク…。どの球種にもバットを出して対応。打席での狙いは「変えますね。変化球を打ったり、真っすぐを狙ったり。(最後は)変化球待ちでストレート対応です。フォークかスライダーをケアしておかないと、空振りを取られる可能性があったので」と極めて冷静だった。

“16球の駆け引き”でも、事前準備が生きた。かつて「僕は、タイムをかけることも、打席を外すことも少ないですね」と話していたように、福田は“間”を取ることはしなかった。「打席では、駆け引きがある。間合いを取るのも大事ですけど、一定のリズムで行くのが良いときもある」。中日福谷を知らぬ間に、福田の世界に連れ込んでいたのである。

「打率もそうですけど、出塁率だったり、球数を投げさせることが僕の仕事ですから」

凜(りん)とした表情で常々掲げる目標は「出塁率4割」。今季はここまで23試合に出場して出塁率は4割2分1厘。今季スタメン22試合で8度のマルチ安打と奮闘中で「膝下のボール球に手を出すと状態も悪くなる。浮いた球は好球必打。とにかく塁に出る。ヒットでも四球でも死球でも良い」と熱く語る。

決意の“グラブ注文”だった。昨オフに福良GMら球団首脳に「試合に出られるなら、どこでも守りたい」と中堅挑戦を直訴した。本職は二塁で「(外野は)野球人生初です」。今春キャンプでアピールに成功し、開幕1軍入りしたが、直後にファームへ。「ずっと、早く(1軍に)上がりたかった。本当は…。全試合フルイニング出たかった」とポツリと漏らす。

割り切ったメンタルで「次の目標は規定打席。もう結構ギリギリなので、アピールしていかないと」と日々、懸命にバットを振る。

1打席で16球を要したのは、今季両リーグ最多球数だった。「今季は周りも見えている。どこ(のゾーン)がヒットになりやすい、どのボールを狙ったらヒットになりやすい…とか考えられているんです」。打率は3割2分9厘と好調。交流戦に限れば47打数19安打で打率4割4厘で四死球も9を数える。

中嶋監督は「(粘りは)彼の持ち味」と評価する。3カード連続の勝ち越しで借金は2。3位ロッテとはゲーム差1と、チームは波に乗りつつある。

8日巨人戦(京セラドーム大阪)からは、本拠地も有観客試合に戻る。福田が打席で粘るたびに、ファンは手をたたく。【真柴健】