阪神の2番遊撃に定着したドラフト6位ルーキー、中野拓夢内野手(24)の好調打撃の秘密はどこにあるのか。日刊スポーツ評論家の桧山進次郎氏(51)が、本紙の好評企画「解体新書」で分析解説した。2割9分1厘の高打率で13盗塁はリーグ単独トップ。阪神一筋22年、4番や代打の神様で一時代を築いた桧山氏が、首位独走に貢献している高度な打撃技術に迫った。【取材・構成=松井清員】

中野選手のフォームの特長は、<1>のようにバットを短く持って、どの球でも対応してやろうというスタイルです。長く持つより捕手寄り、自分寄りに球を引きつけることができて、ストライクボールの見極めが良くなる。マイナスは引きつけた分、ポイントが近くなり、詰まった時に押し込めるかですが、彼はそれができています。オープン気味で球を見やすくして、グラウンドを90度目いっぱい使ってやろうという形を取っています。どっしりした構えは申し分ない。懐の深さがうかがえ、どこに投げて来てもいいよという感じです。

<2>で少し足を上げて始動しますが、一番感心するのは<3>と<4>です。引きつけてタイミングを取って、意思を働かせて打ちにいく、この<3>と<4>を割(わり)といいます。割は言葉を換えるとトップで、これがしっかりできている。打撃動作は常に動いているように見えて、球を見極める時間が必要です。中野選手は<3>と<4>でそれができているので、これはストライクだ、よし狙ったボール打ちにいくぞ、という姿勢ができています。トップの位置も自分の肩より上にあるので、あとはバットを耳元から最短距離で振り下ろすだけです。

バッティングの善しあしは<3>と<4>でほとんど決まります。ここがうまくいかないと、打てる確率が下がります。しっかりトップを作って、見極める時間があるかどうか。これがないと、うわヤバイ、速いとか、遅れて反応して体が開いたり、タイミングを外されて前に出されたりする。それを考えて、バッテリーは投げるわけです。中野選手の場合は、<4>までを見ても、でき上がっている感じの打撃ですが、非凡な特長は<5>~<8>にも詰まっています。

<5>は変化球も頭にあったかもしれないところに来た145キロの速い球でした。多少窮屈に見えますが、彼はグリップを少し中に入れて打ち出しています。巨人の坂本選手も同じ傾向がありますが、ヘッドを遅らせ、木製の特性でもあるバットのしなりを利用して打っているのです。<5>から<6>にかけてグリップを先に出すイメージでヘッドを利かせているので、窮屈でも速い球に間に合うわけです。ヘッドがしなり、非常にいい<6>のインパクトを迎えています。

ポイントが近いと押し込みが難しいのですが、彼の場合は<6>から<7>にかけて左手でグッと押し込めています。グリップが体に巻きついて出る分、ヘッドが残っているので、仮にそこからは捕手側の左手を離しても右手でリードできる打撃です。<7>で押し込み<8>にかけてのフォロースルーも申し分ない。軸もブレないスイングは本当に素晴らしい。

打撃の課題は今のところ見当たらないですね。糸原選手が故障の間に2番に定着しましたが、糸原選手とは何が違うのか。それはより一層、インサイドに強いことです。タイプ的に似ている選手といえば、元阪急の福本豊さんでしょうか。福本さんとバットの形は違いますが、速い球に強く、インサイドもガツンといける。プロ野球は内角の速い球が打てないと良い成績は残せません。インサイドに強い、イコール壁が崩れない。だから左投手も苦にしないのでしょう(※)。内角が弱くて気になると打ちたい、打ちたいと気持ちがはやって体が開きます。でも中野選手は詰まっても、そこからヘッドを走らせて押し込める。バットを体に巻きつけて打っているので、打球も飛びますよね。普段から、内から内から出そうと意識しているのだと思います。なかなかできることではありません。

盗塁センスも抜群で、2年連続盗塁王の近本選手を抜いてリーグトップの13個です。盗塁は足が速いだけでなく、塁に出ないとチャレンジできない。それだけ打撃が良い、出塁率が高いということです。1年目からの3割も十分射程圏内です。プレースタイルもガッツ感、泥臭さがすごくにじみ出ていて、1本では満足しない。無安打でも最後に1本打つとか、これは3割打者の必須条件です。もし1年目で「ショートで3割、盗塁王」を取ればすごいこと。佐藤輝選手で決まりかと思われている新人王も分からないですよ。それだけ魅力いっぱいの選手です。

※中野はここまで53試合に出場し、対左腕は打率3割2厘で、右投手の2割8分6厘を上回る。1本塁打も5月4日のヤクルト戦(神宮)で左腕坂本光士郎の144キロを右越えに運んでいる。

<中野打撃データ>

▼月別 3、4月は打率・340→5月・271→6月・267と下降傾向だが、盗塁は4月3→5月4→6月6個と増加。交流戦では12球団トップの8個を記録した。

▼カード・球場別 セ・リーグではDeNA戦が打率4割2分9厘、広島戦も3割7分5厘と打っている。ただ巨人戦は21打数2安打の打率9分5厘と苦手。巨人戦は7試合に出場しているが、甲子園では代走から出場した1試合だけで打席には立っておらず、6試合は東京ドーム。敵地の克服が今後の課題になりそうだ。

▼デー・ナイター別 デーゲームは打率3割7分7厘と得意。ナイターは2割4分。

▼打球方向別 安打は左翼が14、中堅12、右翼19とまんべんなく打ち分けている。内野安打は3本。(6月17日現在)

○…桧山氏は近本&中野の1、2番継続を支持した。「1、2番の足が速いのは、相手は本当にイヤな打線。近本選手が出なくても、中野選手が塁に出れば二塁に行く可能性がある」。その上で、打撃センスを高く評価する糸原については「器用なので2番はもったいない」と分析した。「勝負強い打者なので相手も6、7番の方が怖いのでは。将来的には糸原選手の3番もあると思う。そういう意味で、中野選手が2番に入って厚みが出て、全く気が抜けない打線になっている」と話した。

 

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