日刊スポーツの不定期企画「虎を深掘り。」の第8回は、阪神近本光司外野手(28)のフェンス際でのジャンピングキャッチの秘密に迫る。2日巨人戦(東京ドーム)の7回、吉川の左中間への当たりに、グラブを伸ばしてジャンプしながらキャッチ。フェンスに激突し倒れ込んでもボールを離さなかった。これまで何度も同様のプレーでチームを救ってきた名手のこだわりとは。【取材・構成=中野椋】

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近本はなぜ、フェンス際で華麗なジャンピングキャッチを決められるのか。「まずは落下地点まで、いかに早くいけるか」が第1ポイント。「基本的にフェンス際のプレーって、意識することがめちゃめちゃある」からだ。フェンスとの距離、ボールとのタイミング、風…。ただフライを捕るという単純な作業ではない。そこで、とにかく準備の時間が欲しい。

落下地点に早くたどり着ければ着けるほど、その時間は長くなる。ただ、単に速く走ればいいわけではない。過去3度盗塁王に輝いた俊足を生かしつつ、落下地点までの“道中”にこだわりがある。

「まず1回、打球から目線を切る。目を切ってフェンスの位置と距離感を確認する。地面を見て速く走っても意味がない」

打球が舞っている間、それを瞬時の判断でやってのける。そして、フェンス際までたどりつけば「また2回か3回は目線を切るかな」。フェンスの位置を最終確認し、ようやく捕球に集中する。

ジャンプする前にはポジショニングの最終確認も欠かせない。理想はフェンスよりも「ちょっと前」。決してフェンスにベタ付きはしない。「近すぎたらジャンプした瞬間に肩が当たることもある」という。

ジャンプも、考えなしに跳んでいるわけではない。「できるだけ高い方がいい。ボールに合わせてしまうと、もしかしたら最後のひと伸びで、フェンスに当たってしまう可能性もある」。球場の風、ボールのスピン。あらゆる可能性を頭に入れアウトをもぎ取っているのだ。

2年連続ゴールデン・グラブ賞の名手も、最初からこうしたプレーが得意だったわけではない。関学大2年秋に投手から外野手に転向。プロに入るまではダイビングキャッチもしたことがなかった。筒井外野守備走塁コーチと取り組んだのは、地道な基礎練習だ。

「僕がよくやるのは、グラブにボールを入れて“シャドー”をやりなさいと」(筒井コーチ)。阪神に入団してからは、グラブにボールを入れフェンス際でジャンプを繰り返す、イメージ作りから入った。今は若い森下や前川が取り組む基礎中の基礎。フェンスとの距離感や捕球の疑似体験を体に染みこませた後は、ノック、実戦での成功体験を積み重ね、今がある。

2日の巨人戦(東京ドーム)では吉川の左中間の打球に追いつきジャンピングキャッチ。「右中間、左中間の打球はライトやレフトの選手も気にしないといけない」という近本にとっても、難易度は「S級」のプレーだったはずだ。細部までのこだわり、地道な練習の積み重ねが“フェンス際の魔術師”を生んでいる。

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