大相撲のドキュメンタリー映画「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」がTOHOシネマズ錦糸町で30日から、中野区のポレポレ東中野ほかで31日から全国で順次公開される。公開1週間前となった23日までに、本作の坂田栄治監督(45)が日刊スポーツのインタビュー取材に応じた。18年12月から19年6月の半年間、元大関豪栄道(現武隈親方)らが在籍する境川部屋と、前頭竜電(29)らが在籍する高田川部屋に密着。本作に込めた思いや、撮影の裏側を明かした。【聞き手=佐藤礼征】


-本作では土俵上での力士がぶつかる音に度肝を抜かれる

坂田監督 人と人が当たってあんな音が出ることなんてない。すごいことですよね。

-相撲のドキュメンタリー映画は本作が初めて

坂田監督 相撲の文化を撮りたかった。こういう部屋もあって、他の部屋もあると伝えたかったので(境川部屋と高田川部屋の)2つの部屋を撮影した。

-相撲に関する知識はもともとあったのか

坂田監督 全然ないです。知らないことを武器に撮りました。お相撲を好きな方に喜んでもらいたいと思って作ったのはもちろんだけど、相撲に関心のない人に関心を持ってもらえるように撮ったつもりです。相撲のファンを広げたい、海外の人にも相撲が面白いと伝えたかった。マニア向けではなく、僕みたいな知識のない人が関心を持つこと、刺激を得ることを目的に作った。

-境川部屋と高田川部屋の2つの部屋を選んだ理由

坂田監督 (本作のコーディネートプロデューサーを務める相撲漫画家の)琴剣さんも言っていたけど、境川部屋は「ザ・相撲部屋」。まず境川部屋を見に行ったときも、カメラやマスコミを受け付けない雰囲気を感じた。あまりカメラの前に出ていないと聞いたので、ドキュメンタリーを撮る意味があると思って決めた。もう1部屋は雰囲気が全く違うところが面白いと思っていたところで「高田川部屋がいいんじゃないか」と聞いた。高田川親方(元関脇安芸乃島)もまわしを締めて稽古場に降りているし、竜電関のしゃべっている感じが、僕が意識している力士のイメージではなく、好青年という感じだった。お相撲さんは言葉が少ないイメージがあったが、竜電関のそこにも魅力があった。

-最初に撮影したのは境川部屋

坂田監督 (18年の)12月前から撮影を始めたんですけど、取材は11月の九州場所から始まった。カメラを持たない自分の取材。力士と距離感を縮める取材だった。九州に泊まり込んで、朝から稽古を見て、稽古後にちゃんこを食べて、それがあってのあの撮影だった。

-最初は力士と距離感があったか

坂田監督 もちろんです。でも、豪栄道関は(撮影開始時は)けが明けだったけど全然、ピリピリしているところを出さなかったのでありがたかったです。妙義龍関(33=境川)は境川部屋に行って最初に「監督、一緒にちゃんこ食べましょうよ」と言ってくれた。すごく優しい人。距離感を縮めてくれました。

-稽古場には独特の緊張感がある

坂田監督 境川親方(元小結両国)に1回、稽古場から追い出されましたね。「撮られるのは好きじゃないんだ」と。撮影始まって3日目くらいのときでしたけど(笑い)。徐々に受け入れてもらえました。「自分じゃなくて現役の力士をちゃんと取り上げてくれ」と言われたことが印象に残っています。

-高田川部屋は境川部屋と雰囲気の違う部屋

坂田監督 高田川親方はまわしを締めて稽古場に出てくる。僧帽筋がまだすごい、どんな体しているんだと思いますよね。竜電関はナチュラル。豪栄道関もナチュラルだけど、竜電関は特に場所中も自然体でした。映画では境川部屋と高田川部屋で作り方を変えている。高田川部屋の撮影では密着感を大事にしているので、注目してほしいです。

-映画を通して力士や親方の奮闘が伝わってくる

坂田監督 ワイドショーとかで相撲が大々的に取り上げられるのは不祥事のときが多いけど、そうじゃないんだと。「相撲界は古い世界だ」というコメンテーターもいるけど、実際はどうなのかと。それをひっくり返したい意思もある。みんな頑張っているし、みんな戦っている。

-本場所で会場内の大歓声が響く場面がある。現在はコロナ禍でお客さんの歓声がないだけに懐かしく感じる

坂田監督 作っているときは感じなかったが、試写会で見て「レアなシーンだ」と思った。この作品は何十年後に残さないといけないと思って作った。たまたまコロナになったが、撮っておいて良かったと思う。残すべきものを残せたと思っている。

-豪栄道関は引退前に現役の姿を撮影できた

坂田監督 撮れて良かったですね! サムライを。引退後の表情は全然違いますね(笑い)。僕らは撮影の合間に見ているけど、メディアではそんな笑顔のイメージがなかった。

-間もなく映画公開日

坂田監督 本当はオリンピックの前を目指していて6月くらいに公開したかったが、コロナで劇場が閉まったりした関係で、このタイミングになった。この作品は、本来のお相撲の世界が残っている。相撲ファンにはそこを体感していただいて、元通りになることを楽しみにしてほしい。相撲を知らない人に向けては「力士ってかっこいいな」と思えるように作った。自分が仲のいい人に「すごいだろう、お相撲って」と自慢してほしい。日本人としてお相撲のある国に生まれてよかったなと思ってほしい。(11月5日から29日にかけて開催される)ハワイ国際映画祭に出品することも決まったので、それをきっかけに外国人の方も見てくれればいいですね。

-次回作も考えているのか

坂田監督 ヒットしたらやりたいですよね。「相撲道2」! ちゃんとヒットすることを願っています!


(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)