一発のパンチですべてが変わるボクシング。選手、関係者が「あの選手の、あの試合の、あの一撃」をセレクトし、語ります。元WBC世界スーパーバンタム級王者で、4階級制覇を狙う田中恒成を指導する畑中清詞会長(53)の印象深い一撃は「ハグラーの右」。85年に行われた統一ミドル級王者マービン・ハグラー(米国)-のちの初の5階級制覇王者トーマス・ハーンズ(米国)は「黄金の中量級」と称された80年代を象徴する一戦。劣勢の展開からハーンズを沈めたハグラーの右ストレートを畑中会長が語った。(取材・構成=実藤健一)

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▼試合VTR 85年4月15日、米国ラスベガスで行われたビッグマッチ。開始早々、スロースターターだったはずのハグラーが逆手にとるように仕掛け、打ち合いに持ち込む。パンチのキレはハーンズで1回にハグラーの右目上、2回には額から流血させる。3回、出血のドクターチェックを受けてストップの危険を感じたハグラーが一気にギアを上げ、サウスポースタイルから右構えにスイッチして猛ラッシュ。ハーンズの弱点あごに右をヒットさせてぐらつかせ、さらに右ストレートを打ち抜くと、ハーンズは大の字に倒れ、10カウントが告げられた。

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俺が18の時だから、すでにプロになってた時だね。映像で見たのは覚えているけど、テレビ中継なのか、後でビデオで見たのかはっきりしないけど、すごいパンチだったのは記憶に残っている。あのハーンズが大の字に倒れて動けない。強烈に刺激を受けたよ。

といっても体格やバネは外国人特有のものだから。練習でまねしようとしたけど、すぐにあきらめた。日本人には無理だ、と。

黄金の中量級と言われた時代でね。4人(ハグラー、ハーンズ、シュガー・レイ・レナード、ロベルト・デュラン)の戦いが、楽しみでしょうがなかった。自分のボクシングの参考というより、違う次元のものとして見ていた。4人ともスーパーチャンプだからね。それぞれに個性があって、そのぶつかり合いにわくわくした。ファンだね。

ボクシングのスタイルはまねできないけど、当時のような活気は目指したいと思っているよ。その一環でU-15(ジュニア世代の強化を目的に07年に設立された全国U-15ジュニアボクシング大会)ができて、この大会から(WBA、IBF世界バンタム級王者)井上尚弥らがでてきた。

近い世代、階級にはうちの田中恒成もいる。それぞれが刺激し合い、いずれは「黄金の軽量級」となればいいね。あんなすごいKOシーンは、だれもが見たいもの。

◆畑中清詞(はたなか・きよし)1967年(昭42)3月7日、愛知県生まれ。中学からボクシングを始め、享栄高3年時にプロ入り。84年11月のデビュー戦で1回KO勝ちを飾り、その後5戦連続1回KO勝利。88年9月、15戦無敗でWBC世界スーパーフライ級タイトルに挑戦も、ヒルベルト・ローマンに完敗。91年2月、WBC世界スーパーバンタム級王座に挑み、計6度のダウンを奪って8回TKO勝ちでベルトを奪取した。戦績は22勝(15KO)2敗1分け。現在は畑中ジム会長。

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