「男と女 人生最良の日々」(31日公開)は、53年の時をまたぐ奇跡のような作品だ。

アヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンが共演した「男と女」(66年)は、カンヌ映画祭最高賞とアカデミー外国語映画賞に輝き、当時28歳のクロード・ルルーシュ監督は一躍脚光を浴びた。男女の愛の葛藤を1時間40分あまりに凝縮し、全編に流れるダバダバダ…のスキャットはあまりにも有名だ。一方で、2週間程度で撮り終えた自主映画のような作品でもあり、「カメラを止めるな!」の国際版と言っていいような側面もあった。

その半世紀後を描くのが「-人生最良の日々」である。奇跡というのは82歳になったルルーシュ監督が自らメガホンを取っただけではなく、それぞれ87歳と89歳になった主演コンビが同じ役で出演。さらにはそれぞれが連れていた子ども役のスアド・アミドゥとアントワーヌ・シレも老齢に差し掛かった姿でそのまま登場しているのである。

そして、あのスキャットを生み出したフランシス・レイも一昨年亡くなる寸前まで今回の作品の音作りに関わっていたという。半世紀越しの同キャスト、同スタッフ。まさに「奇跡」ではないか。

映画は海辺の高級老人ホームで幕を開ける。カー・レーサーとして一世を風靡(ふうび)したジャン・ルイ(トランティニャン)は日々記憶が曖昧になっている。心配する息子のアントワーヌは、父親が繰り返し名前を口にするアンヌ(エーメ)を探す。再会を果たした2人は施設を抜け出し、思い出の地ノルマンディーを訪ねるが…。

53年前の映像が回想としてふんだんに織り込まれ、現在の2人の旅と巧みに織り合わされていく。その旅は現実なのか、ジャン・ルイの妄想なのか。その境目は微妙に繕われていて、こちらを惑わせ、いつの間にかワクワクさせ、やがては虚実どちらでも良いではないかと思わせる。

互いに手探りのような再会シーン、ノルマンディーの思い出のホテルを訪ねるシーン…新旧映像の時間差の大きさに心を揺さぶられる。橋田寿賀子脚本とまでは言わないが、現代パートのセリフは冗舌で、曖昧さが魅力だった過去映像とのコントラストはその意味でも際立っている。

2人はそれぞれにいい年の重ね方をしていると思うのだが、回想シーンのみずみずしい姿と比べると懐かしいというより、少し哀しい。半世紀をまたぐ、同キャストの映像は映画監督にとっては夢のようなことだろうが、同時に時の流れの残酷さも浮き彫りにする。2人が離ればなれになっていて失った時間の重さもズシリと感じさせる。

ルルーシュ監督は試写を見て自ら泣いたと告白しているが、そこにはさまざまな、複雑な思いがあったのだろう。

53年前の作品をリアルタイムで見た人は少ないだろう。私も高校時代に名画座で見たクチだ。1本で完結してはいるが、やはり前作を見ておいた方が感情の振幅は大きくなる。そして主演コンビに年が近いほど涙の量は多くなるはずだ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)