近年オスカーの前哨戦として注目を集めているトロント国際映画祭が5日に開幕し、今年も多くのオスカー有力候補作品がお披露目されています。過去10年を振り返っても昨年アカデミー賞作品賞に輝いた「グリーンブック」や2013年の「それでも夜は明ける」、2010年の「英国王のスピーチ」などトロント国際映画祭で最高賞に当たる「観客賞」を受賞した作品がオスカーを手にしていることから、翌年のアカデミー賞を占う上で重要な賞の一つとして知られています。10日間に渡って開催されているトロント国際映画祭では、245本もの作品が上映される予定ですが、その中から早くも来年のオスカー候補として注目されている作品を紹介します。

●「ザ・ゴールドフィンチ」

2014年にピューリッツアー賞を受賞したベストセラー小説「ゴールドフィンチ」を映画化した本作は、美術館爆発テロで母親を亡くした主人公の少年が混乱に紛れて美術館から持ち去った1枚の絵画と共にその後波乱万丈の運命を辿っていくと言う物語です。主人公の少年を演じるのは、「ピートと秘密の友達」(16年)などで注目される子役のオックス・フェグリー。大人になってからは「ベイビー・ドライバー」(17年)などで今最も注目される若手俳優アンセル・エルゴートが演じ、事件後に孤児となった少年を引き取る義母役はニコール・キッドマンと豪華なキャスト陣が顔を揃えています。

●「ア・ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド」

トム・ハンクスが1968年から01年まで30年以上に渡って放送された国民的子供番組「ミスター・ロジャースのご近所」で全米の子供たちに愛され続けた伝説の司会者フレッド・ロジャースを演じる伝記映画。ハンクス演じるロジャースと実在したジャーナリスト、トム・ジュノー氏との友情を描く物語で、ハンクスははまり役と絶賛されています。

●「ジャスト・マーシー」

「クリード」シリーズや「ブラック・パンサー」(18年)で注目されるマイケル・B・ジョーダンと「Ray/レイ」(04年)でアカデミー賞主演男優賞に輝いているジェイミー・フォックスが共演する法廷ドラマ。司法の不公正と戦う実在の人権派弁護士ブライアン・スティーブンソン氏が14年に発表したノンフィクションを基にした伝記映画で、1986年にアラバマ州で起きた殺人事件で冤罪で死刑判決を言い渡された被告の無実を証明するため、人種差別と闘うストーリー。

●「ジョーカー」

第76回ベネチア国際映画祭でアメコミ作品として初めて金獅子賞を受賞し、オスカー最有力候補の呼び声が高いのが、バットマンの宿敵ジョーカーの誕生を描いた「ジョーカー」。ジョーカーと言えば薬物中毒で急逝したヒース・レジャーが演じた「ダークナイト」(08年)のジョーカーが、バットマン史上最高の悪役と称されていますが、本作でジョーカーを演じているのは個性派俳優ホアンキン・フェニックス。これまで多くの名優たちが演じてきた歴代のジョーカーに劣らない怪演ぶりで、孤独ながらも心優しい男がいかにして狂気に満ちたジョーカーへと変貌していくかが描かれており、その鍵を握る男をロバート・デ・ニーロが演じています。

●「ジュディ」

「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズで知られるレニー・ゼルウィガーが、「オズの魔法使い」(39年)や「スタア誕生」(54年)などでハリウッドの一時代を築いた名女優ジュディ・ガーランドを演じる伝記映画。「シカゴ」(02年)やアカデミー賞助演女優賞に輝いた「コールドマウンテン」などで高い評価を受けているゼルウィガーが、ガーランドになりきっている演技は注目です。

●「ハスラーズ」

ジェニファー・ロペスが主演と製作総指揮を務めた「ハスラーズ」は、15年にニューヨーク・マガジン誌に掲載されたウォール・ストリートの裕福な投資家から多額の金銭を奪う計画をしたストリッパーたちを取材した記事を基にした実話。ストリッパーを演じるロペスは当たり役で才能が開花したと絶賛されています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)