紀伊国屋演劇賞の贈呈式が28日、新宿の紀伊国屋ホールで行われた。同賞は1966年に誕生し、演劇界ではもっとも伝統ある賞で、個人賞はこれまでに約270人に贈られてきた。

54回目となる今回は、個人賞で対照的な2人が受賞した。野田秀樹作・演出「Q」に初舞台で挑んだ広瀬すず(21)が受賞した。半世紀を超える同賞でも初めての快挙で、最年少受賞でもある。そして、同賞が誕生した年に俳優デビューしたベテラン村井国夫(75)も劇団桟敷童子公演「獣唄」に主演し初受賞した。村井が同舞台の途中で軽い心筋梗塞で倒れ、わずか5日で降板したが、幸いにも審査員が降板前に見ていたため、54年目にして初の受賞となった。

受賞のあいさつも対照的だった。緊張気味の広瀬は「正直私は、舞台はやらないだろうと思っていました。初めて野田さんのワークショップに参加した時も、公園の時計噴水やケンタウロスになって、表現の難しさ、面白さも知りました」。「Q」では松たか子、上川隆也らと共演した。「舞台は最初で最後と思ったり、苦労や悔しさもあった。もっと演劇の世界を知って、まだ浅はかな場所にいるので、ここにいるような皆さんの背中に少しでも追いつけるよう勉強、努力をしたい。演劇の人が熱くお芝居の話をする言葉に刺激をもらい、新鮮で幸せな時間でした」と振り返った。

村井は「この賞はとてもうれしい賞です。今まで54年間、まったく縁もなかったけど、いただけるものならいただきたいと思っていました。大好きな桟敷童子のみんなと一緒にもらえたことは本当に喜びもひとしおです」と目に涙を浮かべ、声も震わせた。

団体賞受賞の桟敷童子への出演は念願だったが、無念の途中降板をした。「5日間やったところで、心筋梗塞という不摂生な病気になって、降板せざるをえなくなり、ご迷惑をおかけしました」と謝罪。その上で「命拾いして元気にしていますので、この賞を口実に再演していただきたい。僕は6回しかやってないんですよ」と再演を熱望。54年目の初受賞にも「よく54年も頑張ってきたな。54年で初めてもらう紀伊国屋演劇賞。この中に初舞台でもらった人がいる。僕は54年かかったのに、初舞台でもらう。これも才能の差だと思う」と自虐的な言葉で会場の笑いを誘い、広瀬も思わず苦笑した。

過去に3度受賞は北林谷栄だけで、2度は仲代達矢、加藤剛、吉田日出子、野田秀樹らがいる。広瀬には舞台経験を重ねて、2度、そして3度の受賞を期待したい。【林尚之】

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)