今年の演劇界で最大の話題になるはずだった、市川海老蔵(42)の「十三代目市川團十郎白猿」襲名披露公演も延期になった。東京・歌舞伎座で5月から7月にかけて盛大に行われる予定だった。4月7日に発表したが、5月公演の前売りが始まる前のギリギリの決断だった。
13年に中村福助(59)の「七代目中村歌右衛門」襲名披露公演を翌14年に歌舞伎座などで行うことが発表されたものの、福助の病気のため無期延期になったことはあったが、「勧進帳」「助六」「暫」「景清」など襲名披露の演目や出演者なども発表になってからの延期は、400年を超える歌舞伎の長い歴史の中でも前例がなかった。
海老蔵も新型コロナウイルスの感染が拡大する中での襲名公演について、自身のブログでは「延期を考えないといけないと思う」と悩みを明かし、3月下旬に予定した大々的な襲名披露パーティーも中止していた。それだけに、延期決定後にはブログに「舞台に立つその日まで日々精進を続けてまいります」と、気持ちを切り替えて前向きのコメントをつづっていた。
延期時期は未定だが、新型コロナウイルス感染の終息が見通せない中で、年内の開催はあまりにリスクが大きい。そのため、東京オリンピック(五輪)が来年7月に延期になったように、今年と同じく5月から7月にかけてとなる可能性が高いだろう。その場合は演目も出演者も、そのままスライドすることになるだろう。
その時には新型コロナも終息していることを期待したいが、襲名口上で披露する「にらみ」は特別な意味合いが生まれるだろう。「にらみ」は成田屋、團十郎家だけに継承される伝統的な見得(みえ)の1つで、口上など特別な場合にしか披露されない。江戸時代には「團十郎のにらみを見たら、邪気が払われ、1年間無病息災で暮らせる」と言われたほど、御利益のあるものとされていた。新型コロナ終息の暁には、新團十郎の「にらみ」が、パンデミックを克服した新たな時代の象徴になるのかもしれない。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)




