おだてられると、得意満面の笑みを浮かべ、叱られると全身でシュン。劇中で見せる1つ1つの表情にクスッと笑ってしまいます。笑いにこだわり続けてきた喜劇人ですが、根底には「危険な魅力」があります。俳優で演出家、松尾スズキ(56)。先日、大阪市内で監督・脚本・主演を務めた映画「108~海馬五郎の復讐と冒険~」(25日公開)のインタビューする機会がありました。

部屋に現れると「きょうはお手柔らかに」。人なつっこい笑顔が場を和ませます。1988年に「大人計画」を旗揚げし、これまで苦い笑いと毒気のある作品を手がけ、出演もこなしてきました。大人計画にはテレビや映画でも活躍する脚本家、宮藤官九郎、阿部サダヲ、星野源ら個性派がそろっています。

松尾作品は人間の野蛮さ、暴力、下ネタなどタブーとされる題材を扱い、コミカルに描きます。ときには過激な表現もあります。

監督、脚本、主演の3役をこなした「108~」は危険な? 濡(ぬ)れ場の連続です。同作はR18+指定作品。平たく言えば、18禁です。

「ギリギリは難しいですか? 難しい。もしかしたら今回は、ギリギリを超えてしまっているかもしれない」

公開が間近に迫っている4作目となる長編監督作品には、試写をみた交流のある映画監督らから「よくぞ、やってくれた」などの声があり、評価は高いようです。

「自分が監督、脚本、主演をするときの武器として、反道徳的というと言葉がすごくなるけど、そういう主人公をやるっていうのは、他の人がやっていないことなんかじゃないかなって思う」

同作はSNSで妻の不倫を知ってしまった脚本家の夫が、資産1000万円を使いながら、SNSにつけられた「いいね」の数となる108人の女性と交わろうとする復讐(ふくしゅう)劇。主人公の夫役を松尾が、自分の浮気をSNSに投稿する元女優の妻役を中山美穂が演じています。  50人以上の全裸の男女とローションまみれで絡み合う場面は、最大の濡れ場です。

「昔、バラエティー番組を演出したとき、真剣にしゃべり合う男たちにローションをかけながら真剣に討議するシーンをつくったことがあった。最終的にぐっちょんぐっちょんに転げ回る。あのコントロールを失った人間の姿って、究極のドタバタコメディーだなと思った」

過激な表現もありますが、どこかに品を感じさせます。

「日本映画ってなんとなく貧乏くさいところもある。貧乏くさい撮り方はしたくないなと思った。普通は(主人公の)シナリオライターが、あれほど豪華なマンションには住めない。リッチなにおいのする、絵図作りをしたかった。常にいいスーツを着ている。主人公はかつてイギリス人と結婚していたり、英語がぺらぺらだったり。ほんとはいらないシーンかもしれないけど、そういう知性があったり、女性にモテたり、いままでの主人公にない逆張りで勝負してみたかった」 作品への強い思いもあります。

「監督、脚本、主演の作品を小さな規模でも1作残したかった。それは敬愛する喜劇作家、ウッディ・アレン、メル・ブルックス、彼らがやっていないだろう、やりたがらないであろう、濡れ場の連続をあえてやることで、松尾の色を出そうと思った」

既成の表現を壊してやろう-。穏やかな表情の中に一瞬、「危険な魅力」が垣間見えました。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)