吉本新喜劇の花紀京(はなき・きょう、1937~2015年)といっても、若い世代には「誰?」となるだろう。その昔、小学生だった記者にとって「吉本新喜劇=花紀京」でもあった。昭和の新喜劇の看板座長として君臨し、派手なギャグではなく、芝居の間で笑わせる名人だった。盟友岡八郎(当時)との漫才や、ミヤコ蝶々の主演舞台でも抜群の存在感を放っていた。

その花紀京を師匠として笑いを学んだのが内場勝則(64)。内場も師匠にならってか、2019年の座長勇退後は外部出演(新喜劇以外の芝居やテレビドラマ)に積極的だ。2月23日まで上演中の大阪国際文化芸術プロジェクト「FOLKER」(大阪・堂島リバーフォーラム)でも、内場はきらりと光る仕事をしている。

女囚刑務所の更生プログラムとして受刑者がフォークダンスに出場するという群像劇。後藤ひろひと作・演出、出演は宝塚歌劇団出身の紅ゆずる、そして、小島聖(48)遠藤久美子(46)らで、内場は死刑囚たちを励まし、フォークダンスを指導するという異色の役なのだが、記者の目には一番目立っていた。

とにかく声がよく通る。心に傷を持つ受刑者に対し「笑ってください~」と呼びかけるセリフが何度も登場するが、主たる出演者では最年長である内場の声がひときわ舞台に響いていた。

初日の公演前に行われた公開けいこの後、取材陣の前に登場した内場は、宝塚で男役だった元星組トップの紅と並ぶと意外なほどに小柄だった。「舞台ではあれほど大きく映ったのに…」と驚くしかなかった。

ネタバレになるので詳細は避けるが、内場は「影の主演」と呼べるほどキーになる役でもあった。舞台を見た後に振り返るほどに、味わいが増す仕事ぶりでもあった。

「吉本新喜劇は日本一けいこ時間が短い劇団」とは、よく言われる話。毎週新作を上演するため、実質1日だけのセリフ合わせで本番に突入する。通常の芝居は1カ月以上の準備期間を要し、出演者のけいこも入念に繰り返されるだけに、新喜劇は演劇の世界では異質ともいえよう。

紅と内場も今回の芝居では「最初の1週間はフォークダンスの練習ばかり」だった。芝居の肝となるダンスシーンを固めたうえで、動きやセリフの演出を進めていったのだろう。

「ふだんの舞台(新喜劇)とは違う、こんな顔もあるのを見てほしい」とは内場の話。「笑いが一番」の新喜劇から一転、深みを感じさせる舞台へ。

同公演には、コント師「男性ブランコ」の平井まさあき、浦井のりひろも出演。芸達者なところを魅せていた。笑いと芝居は親和性が高い。

最近の取材でレイチェルが新喜劇に入団してすぐの頃、座長だった内場から「芝居をきっちり勉強しなさい」とたたきこまれた、と聞いた。「笑わせてなんぼ」の新喜劇ではあるが、やはり土台にあるのは芝居。「FOLKER」での内場を見て、そのことを再認識させられた。【三宅敏】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

舞台「FOLKER」の出演者。左から後藤ひろひと(演出も)、小島聖、紅ゆずる、遠藤久美子、内場勝則
舞台「FOLKER」の出演者。左から後藤ひろひと(演出も)、小島聖、紅ゆずる、遠藤久美子、内場勝則
1989年、吉本新喜劇での花紀京さん(右)と岡八郎さん
1989年、吉本新喜劇での花紀京さん(右)と岡八郎さん