久々に時代劇の撮影現場を取材する機会があった。京都・松竹撮影所で行われた水谷豊主演の「無用庵隠居修行9」(BS朝日、9月23日午後7時放送)。
京都には東映、松竹、大映の撮影所があったため、古くから時代劇の本場として知られる。時代劇映画の黄金時代は市川右太衛門、片岡千恵蔵らが全盛だった1950年代後半まで続いたが、その後(80~90年代)はテレビ時代劇の隆盛を迎える。
「水戸黄門」「遠山の金さん」「暴れん坊将軍」「影の軍団」「必殺仕事人」「銭形平次」などなど、さまざまな番組が視聴者から愛された。
俳優でいえば松方弘樹、北大路欣也、高橋英樹、松平健、千葉真一、里見浩太朗らは太秦(うずまさ)にある東映撮影所の顔でもあった。彼らの撮影現場に共通していたのは「緊張感」。
スタジオ内で「よ~い、スタート!」と監督の声が掛かると、その様子を取材している記者は小さな物音すら立てることは許されない。咳(せき)払い、くしゃみなどもってのほか。松方や北大路の殺陣は気迫にあふれ、息をのんで見守るしかなかった。うっかりおしゃべりでもしようものなら一刀両断されそうな迫力がそこには充満していた。言葉を変えるなら「これぞ男の世界!」だった。
前置きが長くなったが、本題は水谷豊である。撮影スタジオでは穏やかな笑顔をたやさず、若いスタッフにも気さくに声をかけていた。前述のスターとは対照的に、ピリピリとした空気はかけらもなかった。それはまず、水谷のキャラクターによるものだと感じた。
「無用庵隠居修行」シリーズは派手な殺陣だけでなく、ホームドラマ的要素も人気のひとつ。水谷と共演の長い岸部一徳、檀れいとは気心が知れているため、家族のような空気が撮影現場が漂っていた。ことし90歳の吉川一義監督がシリーズを手がけてきたことも一体感を強くしているのだろう。
撮影後のインタビューで水谷はジョークを交えつつ、記者やスタッフを盛り上げようとしていた。そこに岸部、檀も絶妙なリアクションで応える。結果、チームワークがさらに生まれ、俳優もスタッフも「より良い作品を作ろう」と好循環になる。
「無用庵隠居修行」の第1作は、2017年9月に放送された。以後、ほぼ1年1作ペースで、今回が9作目。21世紀の時代劇では異例のロングシリーズとなっている。
水谷といえば「相棒」を避けることはできない。2000年6月に単発ドラマとして放送され、02年10月から連続ドラマ化。「シーズン24」がことし10月から放送される長寿&人気シリーズ。主人公の杉下右京は当初、ニコリともせず、他人の気持ちを顧みない冷血人間だったが、回を重ねるうち、少しずつ人間味を見せるように変化していった。
撮影を終え、スタジオを出る際、水谷はスタッフ一人ひとりと笑顔でグータッチを交わした。「お疲れさま」「ありがとうね」という意味を込めていたのだろう。その場に居合わせた我々記者に対しても、フレンドリーにグータッチ。ちょんまげ姿の水谷を見ながら「穏やかな人柄と、周囲を笑顔にするリーダーシップが仕事に生かされているのだなあ」と妙に納得してしまった。【三宅敏】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミへキタへ~」)




