広末涼子(39)が、公開中の映画「嘘八百 京町ロワイヤル」(武正晴監督)でヒロインを演じている。謎の京美人にして高級クラブのホステス役。上品さとセクシーの振り幅で、見事に作品をパワーアップさせている。今夏、40代を迎える。女優業を一生ものと思えるようになり、良い意味で欲が出てきた今、新たな意気込みを語ってくれた。

★「茶道」と「たばこ」

ヒットした18年公開のシリーズ第1弾「嘘八百」は、ダブル主演の中井貴一(58)と佐々木蔵之介(51)の物語。第2弾では広末が加わり、3人のストーリーになった。

「評判がいい作品に第2弾で参加させていただくのは、すごくありがたいんですけど、期待にこたえなくてはというプレッシャーがありました」

贋作(がんさく)作りから足を洗った古美術商(中井)と陶芸家(佐々木)の前に現れ、5000万円といわれる幻の茶器をだまし取られたと訴える着物姿の京美人・橘志野役。大胆に背中を露出したセクシーなドレスに身を包む高級クラブ嬢も演じる。

「女優としては、本当にありがたい。いくつもの顔を持った、しかも2人を惑わせ翻弄(ほんろう)する女性の役。すごくやりがいのある役柄をいただいたので、もう精いっぱい頑張らせていただこうと気合を入れました。役作りに当たって、まず髪を長くしようと決めました。振り幅の広い役なので、セクシーさ、上品さ、いろいろな部分を見せなくてはならない。髪は女性としての武器であったり、和装、ホステスの洋服にということも含めて、絶対長い方がいいなと思って監督に提案しました」

クラブ嬢役は、過去の豊富な経験が役に立った。

「銀座のNO・1役をやったことがあるし、実際に銀座の座るだけで何万円みたいなクラブに社会勉強がてら連れて行ってもらったりとか(笑い)。ホステスの部分で大きかったのはたばこ。吸う人から見ると、吸わない人が吸う芝居はばれてしまうので、今までは吸わないことに変えることもあった。今回はその煙を相手に吹きかけるくらいに感じの悪い芝居をしてというのが、監督の中で変わらなかった(笑い)」

京美人の茶道のお点前と、クラブホステスのたばこを吸うしぐさ。

「これが今回の2本柱。和装の茶道とホステスのたばこっていうのが、対極にある女性の表現の仕方。和の所作の美しさとおとなしさ、制限された茶道の動きの美しさ。うまく使えばすごくセクシーに見えるし、いろんな背景を感じさせるたばこを吸いながらのせりふ。茶道の道具を持ち帰って、お部屋の隅っこで、こっそり練習しました」

母親が茶道をやっていたので、教えを願った。

「『なるべく早く完璧に茶道をマスターしたいんだけど、どうしたらいいと思う?』と連絡して『まず、その考えからして、間違っています』と母に言われました(笑い)。『できませんし、その精神が間違っています』って言われて『ですよね』って思いました。ケータイにも茶道の先生の動画を入れて、移動中も見て体になじむように覚えました。たばこもニコチンの入っていないものを取り寄せて練習しました」

1作目からコンビを組む、中井と佐々木の芝居に圧倒された。

「おふた方ともキャラクター出来上がっているし、コンビもテンポ感も素晴らしい。全くNGを出さなくて、本読みの時から圧巻で、楽しくて聞き入ってしまうくらい。現場に入って、ちょっとリハーサル的なことをして、セッティングしてテストして本番が、いつものパターン。この作品は、入った瞬間からテストが始まって、すぐ本番なんです。それができて当たり前みたいなスタートだったので驚きました。このスピードについて行かなくてはと思って、毎日早起きして、現場に入る前に常に所作的なこととかを復習、確認して臨みました。現場では貴一さんのお兄さんとしての立ち振る舞いに、蔵之介さんが甘えるような、楽しそうな兄弟のようでした」

さらなる続編を期待する声も、強く上がっている。

「寅さんみたいに正月映画の定番みたいになっていったら楽しいですよね。私は観客として、いろいろなヒロインが出てきたりして、毎年楽しめたら飽きない作品になるのを楽しみたいですね」

★良い意味で…意識

撮影は約1年前に行われた。まだ、平成だった。

「プライベートでも大きく変わったように感じます。今年はオリンピックでしょう。自分はずっとスポーツばかりやってきた、ただの田舎のスポーツ少女だったので、スポーツを見ることが大好きなんです。スポーツをしている人たちの精神の持っていき方に憧れるし、尊敬する。自分が役者をやっていても、いまだにスポーツをやっていたことが役だっているな、根付いているなと感じます」

中学3年の時にデビュー、15歳だった。今年7月には40歳になる。

「あまり年齢とか数字を気にするタイプではないんですけど、やっぱり40歳と聞くと、なんかこう構える部分がある。まだまだ頑張らなくちゃと思います。私たちの仕事って役職が変わったりして偉くならないんですよね。だから年齢とか立場を気にせず、お仕事をしている。ただ、監督が自分より年下だとか、どこかの社長と同じ年だとか。私はどう考えても偉くはなれないんだけど、ちゃんとしようと思ってます。よくも悪くも、年齢というものをいい意味で意識していきたいと思う」

人生100年時代、まだ半分も行っていない。3人の子の母親でもある。

「若い時は、太く短く生きたいと思っていたんです。今家族ができて、守るべきものがあって、そして30代を女優として生きて来られて、10代、20代よりもはるかに役の幅が広がった。それを経験させてもらったことで、もっとうまくなりたいとか、もっと伝えられたらとか、若い時より欲が出てきた。このお仕事が一生ものだなと思えるようになってきた。40代を新たなスタートとして頑張っていきたいなと思っています」

20代の頃、広末涼子という名に押しつぶされそうになったこともあるという。

「今、家族ができて、やることが増えた。時間が限られているからこそ、お芝居に対する集中力が増して、オンとオフのスイッチングもできる」

40代の広末涼子も楽しみだ。【小谷野俊哉】

▼「嘘八百 京町ロワイヤル」の武正晴監督(53)

前作公開の頃、友近さんのライブを見に行った時に、近くの席に座ってらしたのが広末さんでした。続編の脚本作成時にすぐ広末さんの顔が浮かびました。母親にもなられた彼女の今が、志野のキャラクターにピッタリでした。3番目の主役として存在感を発揮していただいた。何よりも役を楽しんでくれていたのがありがたかった。広末さんと以前から仕事をしたいという願望が、志野というヒロインをつくれた要因の1つだと考えています。

◆広末涼子(ひろすえ・りょうこ)

1980年(昭55)7月18日、高知県生まれ。95年フジテレビ系「ハートにS」でドラマ初出演。ドラマでは00年「オヤジぃ。」などで主演。97年「ビーチボーイズ」、10年「龍馬伝」など数々の作品に出演した。映画では「鉄道員」「秘密」で99年日刊スポーツ映画大賞新人賞、14年「柘榴坂の仇討」「想いのこし」で14年日刊スポーツ映画大賞助演女優賞を受賞。01年「WASABI」、08年「おくりびと」など多数出演。161センチ。血液型O。

◆映画「嘘八百 京町ロワイヤル」

偽物仕事をやめた古美術商・小池則夫(中井貴一)と陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)の前に、謎の京美人・橘志野(広末涼子)が現れる。古田織部の幻の茶器「はたかけ」をだまし取られたという志野のために、2人はひと肌脱ぐことになった。

(2020年2月2日本紙掲載)