デビュー20年を迎えた女優長沢まさみ(33)が輝きを増している。人気シリーズ最新作の映画「コンフィデンスマンJP プリンセス編」(田中亮監督、23日公開)をはじめ、さまざまな作品で、多彩で豊かな姿を見せる。周囲への優しいまなざしと、どんな自分でいたいかを冷静に見つめる目が、高い演技力につながっている。

★絶妙距離感

コロナ禍で新作映画の公開延期が相次ぎ、信用詐欺を描いた「コンフィデンスマン-」も影響を受けた。ようやく公開だ。

「お待たせしました! この作品のいいところは、明るくて楽しいところ。元気になってもらいたいです。子供たちや大人たち、周りの友達、一緒に仕事をする人たちみんなが、おもしろいねと言ってくれるシリーズなので、ありがたいです」

昨年9月に、マレーシア・クアラルンプール、ランカウイ島で撮影を行った。ヘイズ(煙害)に悩まされることもあった。

「近隣の国の焼き畑の煙で、青い空じゃなくなってました。外での撮影は多かったんですが、ガッツリやられて…。ヘイズの影響がある時期だというのを全員知らなくて、大変でした」

2年前のドラマから詐欺仲間役で共演する東出昌大、小日向文世との距離感は、劇中と同じような絶妙さがあるという。

「『コンフィデンスマン-』はシーン数や仕掛け、やることも多くて撮影は過酷なんです。だからこそ楽でいられるメンバーであることが本当に救いです。細かいことを気にしないところとか、3人とも性格が似てるんです。小日向さんは優しくて寛大ですし、東出くんも誠実な方。作品の中に、友達でも家族でも仲間でもない、という言葉があるんですけど、本当にそういう感じ。会うとすごく仲良いのに、普段会わない。気兼ねない人たちなので、お芝居に集中できます」

海外ロケで共演者とのきずなも深まった。偽装親子の関係を演じた関水渚とはよく食事に行った。

「海外のロケは、バレ飯(撮影終了後に皆で食事に行くこと)が多いので、楽しみの1つでした。関水さんを誘ってちょっと遠出もしました。太麺に甘辛いタレ、揚げた卵が乗ったまぜ麺がおいしかったな」

昨年女優デビューしたばかりの関水を見て自分を重ねるところがあったのかとも思ったが、そうではなかった。キャリアや年齢関係なく、純粋に1人の人間、同志として認めていた。

「若い人たちって頑張り屋さん、仕事に対しての意識が高い人が多いので、自分の時はこうだったなと感じることはあまりないです。すごいなと思って見てました。本当にいい子でみんなに愛され、魅力ある女優さん。みんなが彼女に元気をもらってたように感じてました」

★環境に感謝

00年に東宝シンデレラオーディションでグランプリを獲得し、芸能界入りした。演技力の高さは年々評価を受け、人を魅了する力は抜群だが、いたって謙虚だ。今回のような当たり役に出会える喜びを聞くと、今年のブルーリボン賞で主演女優賞を獲得した時のことを振り返った。

「授賞式で(主演男優賞の)中井貴一さんが『助演は自分で取りにいく賞で、主演はみんなが取らせてくれる賞だ』っておっしゃっていた。なるほど、と思ったんです。当たり役と言われるものが自分のところにくるのは周りが促してくれたから。自分でつかみに行ってもつかめなかったと思います。運がいいっていつも思います。東宝シンデレラになったことも運がいいからです。去年、共演した三浦友和さんが『この業界は8割が運だよ』って。やっぱりそうなんだ、って再確認しました」

もちろん努力も必要だが、多くは語らない。

「実力をつけて自分が努力していくことは当たり前のこと。それでもつかめないものってあるんです。恵まれた環境にいる私でもそう思います。感謝しかないですね」

芝居を始めた10代の頃は、取材定番の質問ともいえる「役作り」について話すのが苦手だったとか。生真面目な一面をのぞかせる。

「『どんな役作りをしましたか』と聞かれても、役作りの意味が本当に分かってないので、答えてる自分のしらじらしさを、身をもって感じていました。何もできていないのに、どうして答えなきゃいけないんだろうと矛盾に感じてました。今も、役作りについて語ることがいいのかどうかが分かっていないですね」

作品について情報を伝えることの大切さは十分感じている。見事に情報を受け止めた出来事もあった。

「最近の話ですけど、友達に韓国ドラマを見ろ見ろって言われてたんです。他の作品を見なきゃいけないからって言って、2カ月ずっと誘いを蹴ってたんです。でもついに見始めたら、見事にドンハマりしました! 『愛の不時着』『梨泰院クラス』見てのめり込みました。そういうことなんです。何か人に勧めるには、情報を伝えないと好きになってくれない、そういう思いでやってます」

★母親の影響

公開中の主演映画「MOTHER マザー」では、シングルマザー役。「コンフィデンス-」では、偽とはいえ母親役。偶然ながら母親役が続いた。「母親は子供にとってバイブル」と言うだけに、母の存在、影響は大きい。

「私の母は誰に対してもフラットで、自分ができないことができる人を認められる寛容さを持っています。友達に母を会わせると、みんな母を好きになるんです。目を閉じると5秒で寝られるところは一番憧れます。つらいことがあっても、ちゃんと食べて普通の生活を送れる人。たくましいなと思っていて、そういうところが好きです。生きる力がみなぎっていて、パワースポットみたい」

母親になる未来や結婚観、本人は「20歳過ぎてずっと、いつ結婚したいのと聞かれる」と苦笑いだ。

「子供ができたら欲しいですけど、今まで自由にやってきてますから、そんなに多くは望んでないです。そんな幸せもひとつ、自分の人生にあってもいいのかなとは思います。相手がいないと何とも進まないですからね。相手ができたらいつか結婚したいですね。それもタイミングかな」

今春はほかに、初の一人芝居の幕が開くはずだったが、コロナ禍で中止になった。ぽっかり時間が空いてしまったが、古い映画を見るなどインプットを増やし前向きに過ごした。エンターテインメントの力も再認識した。

「高揚感から生まれる希望、やる気、元気、発想力、情報…。いつの時代も、未知の世界の扉を開くもの。エンターテインメントってすごい。奥深いと思いました」

目の前のことを地道に続けてきた20年間だった。

「余裕をかませるタイプではないので、本当にコツコツです。先回りしたいという気持ちはないです。若い時は目の前を見られなかったかもしれません。次はどうするのとか、次は決まってないのとか、周りの言葉に焦って変なループに陥ってました。大人になってからの方が、目の前のことに丁寧に向き合えるようになりました」

理想の女優像は、どんな人間でありたいかにつながる。

「友達のおばあちゃんが東宝ニューフェースだった方なんです。90代なんですけど、お話もすごく楽しくて。きっと若い時にたくさん勉強して、映画業界で大変な思いもして、戦時中も過ごしたんだと思うんです。力強く生きてるのを見てかっこいいなと思います。ユーモアがあって快活な人間でいられたらいいなと思います」【小林千穂】

▼映画「コンフィデンスマンJP プリンセス編」の田中亮監督

長沢さんは、常に進化、変化していたい人だと思います。演技について意見を交わす時は「前と同じようにはしたくない」と考えていることが多いです。ダー子はこういう役だから、というお約束に逃げない。さらに面白くなるために新しい表現、別のアプローチをいつも探求しています。だからこそ演技の振り幅があるんでしょうね。変わらないのは笑顔。初めてお仕事をした16年前から変わらず、彼女の周りには常に笑顔があふれています。コンフィデンスマンがこれだけ続いているのはそんな空気に触れたくて、スタッフ、キャストが集まってくるからだと思います。

◆長沢(ながさわ)まさみ

1987年(昭62)6月3日、静岡県生まれ。00年に東宝シンデレラオーディションでグランプリ獲得。同年、映画「クロスファイア」でデビュー。映画は「世界の中心で、愛をさけぶ」「モテキ」「海街diary」「キングダム」など、ドラマはTBS系「ドラゴン桜」、フジテレビ系「ラスト・フレンズ」、NHK大河「真田丸」など。舞台も、ミュージカル「キャバレー」「メタルマクベス」など出演。父はサッカー元日本代表MFの長沢和明さん。168センチ、血液型A。

◆コンフィデンスマンJP プリンセス編

世界有数の大富豪、フウ一族をターゲットに10兆円の資産を狙って、ダー子(長沢まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)らがだまし合いを仕掛ける。

(2020年7月12日本紙掲載)