静岡県三島市を中心に地域住民約1万人が関わった映画「惑う After the Rain」(林弘樹監督)が、21日から東京・有楽町スバル座と静岡市の静岡東宝会館で公開される。2014年に地方創生の取り組みで、NPO法人「みしまびと」が動きだして3年。「100年先にも残る映画」をテーマに誕生した同作について取材した。
●21日公開「映画で地方創生」
「みしまびとプロジェクト」は2014年6月に発足した。三島市民の1人が、友人のフェイスブックから知った林弘樹監督の講演会に参加。「映画で地方創生」の取り組みを知り、仲間に呼び掛けたことで、すべてが動き出した。
林監督は北野武監督らのもとで助監督を務めた後、映画制作会社を設立。プロジェクトと同社が組み、制作が始まった。プロジェクト側が三島における家族の在り方、日本の美、終戦直後から私塾があった歴史などを伝え、脚本の基礎ができた。事業費は約6900万円。三島市からの補助金を除き、地域住民、企業などからの寄付金は約5250万円で、プロジェクト参加者は約1万人に。林監督は「100年先まで残る映画をフィルムで撮る」と言い、共鳴した役者陣が集まった。その1人が、準主役の中西美帆(28)だ。
中西 脚本にも胸を打たれました。ただ、(安価なデジタルではなく)フィルムなので、NGを出せない緊張感がすごかったです。
撮影は15年夏と冬に分けて行われた。ロケ地は三島市に加え、裾野、伊豆の国市、清水町に広がった。県指定文化財の楽寿館(三島市)でも初めて撮影許可が出た。中西はクランクイン前、メンバーの自宅でホームステイをした。
中西 おいしい食べ物、水、空気を感じてからの役へのアプローチができました。すべてが素敵で、三島のファンになりました。
プロジェクトのメンバーは撮影をサポートし、食事を作り、出演もした。
中西 作品では、家族とは血のつながりではなく、ともに過ごす時間が作る関係性だと描いています。挙式シーンでの親族はメンバーの方々で、リアルに涙ぐんでいらした。みなさんと家族のように過ごせた時間は、私の財産です。
作品のエンドロールには、プロジェクトに関わった人々の名前が並んでいる。中西はメンバーの思いを胸に、東京、静岡市公開を前にPR活動に動いている。
中西 撮影に入る前は、悩んでいました。役と出会わないと何にもできない役者は、待つ時間も長く、私は誰のために何ができているのだろうと。その中で「惑う」で楓という役に出会い、みなさんに「楓ちゃん」と呼んでもらった。作品と現実が一緒になった感覚で、役者をやっていく意義を感じました。女優として、やっとスタートラインに立てた感じです。
三島市の隣接する清水町では11、12月に先行上映され、好評を得た。県教育委員会推薦の優良作品にもなり、今後、徐々に全国で上映されていく。【柳田通斉】
◆映画「惑う After the Rain」 昭和55年冬、長女いずみ(佐藤仁美)は、結婚式を翌日に控えた夜、母イト(宮崎美子)から、私塾の塾長だった亡父誠志郎(小市慢太郎)の夢を聞かされる。心をゆさぶられたいずみは、故郷を離れ未婚の母になった妹(中西美帆)と、家族4人でともに暮らした情景を思い出し、家族や姉妹とは何かを再考する。三嶋大社、楽寿館などの名所もシーンに登場。他の出演は小市慢太郎ら。125分。



