「…今年のあなたは明らかなオーバーワークから奇跡のように質の高い結果を残しました。肉体改造から繊細な心理描写まで、そこには人知れぬ精進や葛藤があったのだと思います…」

 昨年末の日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞授賞式で、菅田将暉(24)が受賞した主演男優賞の表彰文の一部である。

 受賞コメントを用意していたであろう菅田は一瞬言葉を失い、「『明らかなオーバーワーク』という言葉が表彰状に書かれてビックリした」と正直な気持ちを口にした。続けて「疲れた1年。体は大丈夫。たくさんの仕事で出会った人たちに感謝したい」と振り返った。昨年受賞者のプレゼンター、佐藤浩市(57)から「24歳の今じゃなかったら、いつ走るんだ。ご自身も覚悟を決めたと思う」と励まされ、ようやくほっとしたように「はい!」と応じた。

 「あゝ、荒野」「火花」「キセキ-あの日のソビト-」「帝一の國」…受賞対象となった作品を振り返ると、確かに菅田の仕事ぶりは密度が濃かった。

 「あゝ、荒野」の岸善幸監督(53)からは文字通り「奇跡」とも言うべき演じ分けを聞いた。

 石原さとみ(31)が主演し、一昨年10月に放送された連続ドラマ「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」をご記憶の方も少なくないと思う。恋人役の若手作家を演じた菅田はこのドラマの収録期間中、実は「あゝ、荒野」のボクサー体形を作っている真っ最中だったのだ。

 「-校閲ガール-」の菅田はファッションモデルにも起用されるやさ男。「ボクサー」のゴツゴツ感はみじんもない。「菅田くんは『演じている役とは違い、衣装の下では体がほてっていて妙な感じでした』とドラマ収録の話をしていました」と岸監督は明かす。

 授賞式の菅田は「その瞬間、瞬間…役者として準備が足りなかったかもしれない」と謙虚な言葉も口にしたが、ドラマを見る限り「デリケートな青年」にもしっかりはまっていて、「ボクサー」の匂いはみじんもなかった。「あゝ、荒野」で共演した木下あかり(25)の「努力の固まりのような人」という言葉がその姿勢を言い当てていると思う。

 「これからの映画界を背負う存在として、くれぐれもお身体をたいせつに、そして素晴らしい作品との出会いを祈っています」

 これも主演男優賞表彰文の一部だが、選考委員の皆さん、映画担当記者の正直な思いである。