来月1日の新元号の発表に備えているのは、人間だけではない。「伊豆・三津(みと)シーパラダイス」(静岡県沼津市)の書道ショーで人気のカリフォルニアアシカのグリル(19、メス)が、発表後から新元号を披露するため、練習に励んでいる。現在、新元号予想ショーに出演中のグリルに会いに行った。

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グリルは、飼育技士の秋谷麻彩子さん(30)に連れられ、観客のいないプールサイドに現れた。足取りはヒョコヒョコとして愛らしい。画用紙を貼ったボードの前で止まり、お立ち台にちょこんと座った。墨を付けてもらった筆をくわえ、秋谷さんの合図を見て、筆を走らせる。一筆書いては墨を付ける合間に、ご褒美の魚をほおばる。これを繰り返し、予想新元号を書き上げる。

練習中の元号は「安久」「永安」「安永」「光文」「永和」の5つ。ネットなどの予想ランキングで上位のものを選んだ。秋谷さんが「永遠に平和を、との願いを込めて」という「永和」が飼育技士の間でも有力視されており、グリルも書きやすい“推し年号”という。この日も書いた「永和」の堂々とした筆致に驚かされた。

普段から「道」「喜」などの漢字や、ひらがな、片仮名、アルファベットも書く。予想新元号の練習は、大きさやバランスなどにもこだわりながら、昨年11月末から始めた。書道歴は17年。秋谷さんによると、支えてもらうことなく、自力で筆を動かすアシカは珍しいという。絵も描くことから「書道家」「画伯」の異名も持つ。多才だが、アシカショーでおなじみのボールを鼻に乗せたりするバランス芸は苦手だった。当時の担当者が「能力を生かせるものを」と考え、書道芸に活路を見いだした。

来月1日の発表後からゴールデンウイークまで新元号を披露する。発表の時間帯によっては、その日のうちに新元号に挑むミッションも発生する。秋谷さんは「慌てさせないことが大事」とグリルのメンタルを配慮する。5つの予想新元号以外にも「いろいろな文字を書かせています」と対策は万全だが「直線は得意ですが、斜めや払いは少し苦手。簡単な文字だといいのですが」とドキドキしながら、その時を待っている。【近藤由美子】

▽グリルは「日刊」も書いてくれた。無理を承知で「日刊スポーツ」の「日刊」をリクエストすると、秋谷さんは「いい練習になります。『日刊』は初めて書く文字ですが、多分書けると思います」。その言葉通り、グリルは戸惑う様子も見せずスラスラと書き上げた。

▼伊豆・三津(みと)シーパラダイス 1930(昭5)年、日本で初めてバンドウイルカを飼育した「中之島水族館」が前身で、77年に現在の名前に。セイウチやラッコの飼育を日本で初めて手掛けた。バンドウイルカの豪快なジャンプやアシカ、カマイルカのショーが楽しめる。館内では駿河湾に生息するさまざまな生き物を展示。一部は触ることもできる。自然の入り江を利用した飼育場もあり、カリフォルニアアシカやゴマフアザラシなどがのびのびと暮らしている。