メジロドーベル(大久保洋)が4歳牝馬の頂点に立った。道中は後方に控え、直線、横一線のたたき合いから一気に抜け出し、2着のナナヨーウイングに2馬身半差をつける完勝だった。吉田豊騎手(22)はオークス初騎乗で初制覇。桜花賞に続いて2冠を狙った1番人気のキョウエイマーチ(栗東・野村)は直線失速し11着に敗れた。馬連(9)(16)は1万2550円の大穴だった。
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逃げるキョウエイマーチが早々とバテて、10頭以上が横一線に並ぶ大激戦。500メートルの直線を待ちかねたように緑と白の勝負服が、外から一気に伸びてくる。ラスト1ハロン、西のユタカ(武)のダイイチシガーを、東のユタカのメジロドーベルが一気にかわすと、もう独走だ。追いすがるナナヨーウイングに2馬身半の差をつけ、栄光のゴールへ飛び込んだ。
15万人を超える観客で埋まったスタンド目がけ、吉田豊は右手を真っすぐに突き出した。ただ一頭、ファンの前を通って引き揚げるメジロドーベルに、お決まりのコールが出迎え、今度は左手を突き上げる。
オークス初騎乗で初優勝の快挙だ。「3角でうまくハミが抜けて(行く気を出さずに、リラックスして走ること)“これなら直線でいい脚を使える”と思った。追ってからは左にモタれたので、その後は追わずに真っすぐ走らせようとだけしていました。本当にうれしい」と振り返る。
チューリップ賞では折り合いを欠き、馬の舌がハミを越してしまうアクシデントで3着に敗れ、桜花賞は極端な道悪で2着。一時は吉田降板のウワサも流れる中、最後の最後で22歳の若者は結果を出してみせた。
「特にプレッシャーはない」とレース前に語っていたが、負ければ後がないぐらいの気持ちだったのは間違いない。「乗れるだけでもありがたい。メジロドーベルにはありがとう、と言いたい」と語った時、わずかにだが言葉が詰まり、目が潤んだ。
デビュー当時から先輩騎手にも遠慮せずに声をかけ、時には手荒い注意を受けたこともある強気の男が、初めて見せた素顔。
この後、メジロドーベルは秋華賞で、シーキングザパールとの対決が待っている。そして吉田豊はトキオエクセレントでダービーを目指す。
「頑張ります。スタートさえ気をつければ十分、勝負になります」。自信をつけた22歳、2週連続のG1制覇を誓って、初夏の薫り漂う府中を後にした。【松田隆】
◆メジロドーベル ▽父 メジロライアン▽母 メジロビューティー(パーソロン)▽牝4歳▽馬主 メジロ商事(株)▽調教師 大久保洋吉師(美浦)▽生産者 メジロ牧場(北海道洞爺)▽戦績 8戦5勝▽総収得賞金 2億6418万5000円▽主な勝ちクラ 96年阪神3歳牝馬S(G1)
(1997年5月26日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時