競馬ファンなら友道厩舎の大江祐輔調教助手(42)の名前をご存じの方は多いだろう。
16年ダービー馬マカヒキを担当するなど幾多の名馬を手がけ、厩舎のコメンテーターとしてもさまざまなメディアに登場している。JRAでG1・23勝を挙げる名門において役割は多岐にわたり、スタッフからの意見や情報を集約した上でトレーナーへ伝え、調教やレース選択などについて協議する。
そんな敏腕は、トレセン外でもたくさんの“顔”を持っている。
昨日24日付の紙面連載企画「ケイバラプソディー」では、若者の“進路相談”に携わる活動を紹介した。牧場を営む家に生まれ、高校と大学で馬術に励み、卒業後は国内や欧州でも修業を積んだ。その中で得た経験と人脈を生かし、20年近く前から進学、就職、海外研修などの相談や仲介を引き受けてきた。
馬産業でも人材確保が難しくなってきた近年では「自分から動いて機会を設けています」と、乗馬の大会に足を運ぶなどして若者に向き合う。勧誘というよりはプレゼンテーションだ。
「馬業界といっても、JRA、地方競馬、牧場、乗馬クラブ、獣医さん、装蹄師さん、飼料会社…といろいろありますし、講演会やパンフレットだけでは可能性のある人を拾いきれない。個別に話して、興味があれば少しでも視野を広げて、いい選択をしてもらえたら」
まずはそれぞれの仕事の存在や内容を知ってもらう。馬にまつわる業界では、こうした情報が少なく、若年層でも「なりたくても、どうしたらいいか分からない」という人は多い。それは保護者にとっても同様。だから親子を相手に説明する機会も少なくない。さまざまな職種を知る大江助手との面談は、現場をかいま見る貴重な機会となるはずだ。
実際にトレセンで「実は私、あの時いたんです」と声をかけられたこともあるという。かつて開いた説明会に参加して競馬界を志し、同じ職場で働くことになった女性だっだ。「やっていてよかったと思いました」。競馬とはまた違う喜びを味わえた瞬間だった。
これだけではない。最近は馬術部の監督としても活動している。昨年に滋賀県の光泉カトリック高校で部を創設。見事に予選を突破して今年7月のインターハイにも駒を進める。競馬界に携わる人口が多い栗東近郊では、子供の頃から馬に親しむ機会も多いが、進学によって乗馬を続けられない場合も多く、新たに馬術部を立ち上げることで選択肢を増やす狙いもあったという。
ただでさえトレセンの業務で多忙な中、有給休暇も活用して、多方面で活躍を続ける。すべては馬と人のためだ。
「基本的に一個人で活動しているので、できる範囲でしかできないですけど、何かできればいいなと思って。先生や家族の理解もあって、できていることでもあります。これまでお世話になった方々に対しては、なかなか(直接の)恩返しはできないですけど、僕が生きがいを与えてもらっている世界へ、少しでも恩返しができたら」
彼こそは文字通りのホースマン。どの“顔”も輝いて見える。【太田尚樹】

