今夏の福島、小倉、中京で鞍変位、いわゆる鞍ズレの事象が4件立て続けに発生した。レース中に鞍がずれてしまい、騎手が馬を思い通りにコントロールできない状態。調教師にはそれぞれ過怠金20万円、10万円、1万円、1万円が科された(※競馬施行規程第147条第19号)。

◆7月6日福島9Rさくらんぼ特別(3歳上2勝クラス、ダート1150メートル) 4番手追走のフレッシュランは、4コーナーで鞍変位を起こして急激に減速。1着馬から14秒7遅れ、16頭立て16着で入線した。過怠金20万円。

◆7月13日小倉9R雲仙特別(3歳上2勝クラス、ダート1000メートル) アスタールフナはスタート直後に鞍変位を起こして最後方に後退。14頭立て14着でゴールした。1着から3秒5差。過怠金10万円。

◆7月19日小倉7R(3歳上1勝クラス、芝1200メートル) 4角まで逃げたミジョカスマイルは競走中に鞍変位を起こし、9頭立て9着で入線。1着から1秒4差。過怠金1万円。

◆7月27日中京5R(3歳未勝利、芝1400メートル) 4番手を追走したプレスジャンケットは競走中に鞍変位を起こし、18頭立て9着で入線。1着から1秒0差。過怠金1万円。

鞍変位が確認されると、JRAはレース直後に調教師と騎手からの聞き取りや事象の精査を行い、即日制裁が決定される。管轄する審判部に聞いた。鞍は騎手が重量調整して用意するが、原則として馬装に関する責任は全て管理調教師が負うという。

(Q)過怠金が高額だった20万円と10万円の例は、いずれも当該馬は最下位でした。過怠金に差異がある理由は

(A)制裁内容については、レースに与えた影響度や鞍変位にいたった状況等を総合的に勘案し決定しています。アスタールフナ号、フレッシュラン号ともに1着馬から大きく遅れて入線していますが、フレッシュラン号はその度合いがより著しく(実質的に競走中止に近い状況)、こういった点なども勘案し2件の過怠金の額が異なっています。

(Q)騎手が腹帯を締め直すこともあります。装鞍所で鞍を着けた時とは違う状態になっても、調教師が責任を負うのでしょうか

(A)馬装については原則として調教師に管理責任があり、調教師に対して制裁が科されます。しかしながら、鞍変位に対して騎手の過失による影響が直接的に認められるケース等においては、そうした状況を勘案した上で制裁を決定(制裁を軽減)する場合もあります。

(Q)管理調教師不在で他の調教師が臨場代行していた場合、制裁対象は誰になりますか

(A)他の調教師に臨場委嘱をしている場合でも、当該馬の管理調教師が制裁対象になります。

(Q)裁定に対して不服申し立ては可能ですか。また可能な場合、保証金は必要ですか

(A)所定の書面を提出することにより不服申し立てを行うことは可能です(競馬施行規程第155条第2号)。保証金は不要です。

フレッシュランの津村騎手は後日、日刊スポーツの取材に対して「馬が内にもたれ出して、重心を移動した際にずれてしまいました。馬の汗で滑りやすくなっていたのかもしれません」と状況を説明した。

中央競馬では2021年以降、鞍変位による制裁が過怠金15件、戒告2件あった。毎年2~4件の頻度。今年は7月に集中したが、過怠金を伴う月別発生回数では、季節による偏りは見られない(7月=4回、3月=3回、6月・9月=2回、1月・2月・10月・12月=1回)。

VTRを見返したところ、スタート直後に鞍が前にずれる例が多かった。鞍が変位したまま勝った例もある(過怠金1万円)。これは鞍が後ろにずれたケースで、ある関係者によると前にずれるよりは御しやすいという。

原因はさまざま。馬のキ甲(首の付け根の盛り上がった部分)は前ずれを防ぐ役割も担うが、キ甲が特徴的に低い馬が頭を大きく下げた時にずれてしまった例がある(過怠金20万円)。競走中にラチに接触した際に生じたこともある(過怠金1万円)。

騎手はたとえ鞍変位があっても決してあきらめず、手段を尽くしてゴールまで導こうとする。あたかもトラブルを起こした旅客機の機長のように。騎座は不安定で落馬を防ぐだけでも大変なのに、懸命に前へと進む。その努力は涙ぐましいほどだ。

大きなレースでは1978年天皇賞・春、プレストウコウが知られる。1周目の3~4コーナーで鞍変位を起こして競走中止。2番人気で注目度も高かった(過怠金5万円)。

装鞍の際は誰もが気を付けて鞍を乗せ、腹帯を緩まないように締める。鞍下に滑り止めシートを挟む騎手もいる。それでも鞍変位は起こってしまう。全体としては非常に低い確率ではあるが、防止する工夫を重ねるに越したことはない。【岡山俊明】

 

◆鞍変位による過怠金の例(21年以降。8月15日現在)

〈25年7月27日中京5R(芝1400メートル)プレスジャンケット18頭立て9着=1秒0差〉競走中。1万円

〈25年7月19日小倉7R(芝1200メートル)ミジョカスマイル9頭立て9着=1秒4差〉競走中。1万円

〈25年7月13日小倉9R(ダ1000メートル)アスタールフナ14頭立て14着=3秒5差〉発走直後。10万円

〈25年7月6日福島9R(ダ1150メートル)フレッシュラン16頭立て16着=14秒7差〉4コーナー。20万円

〈25年3月22日阪神9R(芝1400メートル)ヤマニンアンフィル18頭立て10着=0秒9差〉発走直後。1万円

〈24年10月26日新潟3R(ダ1200メートル)フレイミングパイ11頭立て1着〉向正面。1万円

〈24年9月16日中京1R(ダ1400メートル)リリードリーマー10頭立て4着=1秒5差〉発走直後。10万円

〈23年3月12日阪神8R(ダ1800メートル)シャドウアイル11頭立て11着=3秒7差〉発走直後。5万円

〈23年2月11日小倉9R(芝2000メートル)フェブサンカラ12頭立て11着=1秒7差〉発走直後。1万円

〈22年12月18日阪神6R(ダ1200メートル)スノーヴァース13頭立て6着=2秒1差〉最後の直線で内ラチ接触による。1万円

〈22年6月26日東京3R(芝1600メートル)エンロサディラ15頭立て15着=22秒8差〉向正面。20万円

〈22年1月16日小倉4R(障害芝2860メートル)ウエスタンアミーゴ11頭立て競走中止〉発走直後。20万円

〈21年9月25日中山2R(芝1600メートル)ピカリエ16頭立て16着=4秒6差〉発走直後。5万円

〈21年6月26日東京7R(ダ2100メートル)ボマライン14頭立て14着=6秒8差〉発走直後。10万円

〈21年3月28日阪神1R(ダ1800メートル)スエヒロヴァン16頭立て14着=5秒2差〉発走直後。3万円

(過怠金は全て調教師。着順の後の数字は1着馬との差)。

 

※競馬施行規程第147条第19号(要約)「競馬の公正確保について業務上の注意義務に違反した者」に「調教もしくは騎乗を停止し、戒告し、又は100万円以下の過怠金を課する」。