川崎フロンターレの選手、スタッフの皆さん、そしてサポーターの皆さん、リーグ優勝おめでとうございます!

見る人を魅了するフロンターレサッカーにエネルギーをもらった人は多いのではないでしょうか。間違いなく僕もその1人です。ただ、僕は川崎Fのサッカーうんぬんではなく、フロンターレに関わる人の姿勢や取り組み方にエネルギーをもらった気がします。そして、それが優勝した理由のひとつであるのではないかと考えています。

僕はフロンターレに心から尊敬できる友人がいます。エースストライカーの小林悠選手、ドリブラーでチャンスメーカーの長谷川竜也選手、そしてフロンターレの歴代ブラジル人を支えている中山和也通訳。僕にとっては、欠かすことのできない大切な友人です。

そんな彼らとのコミュニケーションから感じたことは、チーム内競争が激化し、プロフェッショナルのあり方のハードルが上がっていたということです。そこには2つのハードルが存在していたと思います。

ひとつは、単純に選手間のライバル意識が強まり、誰が出てもクオリティーを落とすことなくロスタイムを含めた約95分間を戦い続けられるということです。新型コロナウイルスの影響による自粛期間に長谷川竜也選手とオンラインミーティングをした時、彼はこんなことを言っていました。

「今年は誰がレギュラーとかベンチとかそういうものはない」

この言葉はシンプルですが、非常に奥が深く、このコロナ禍の状況をしっかりと捉えたものです。また、小林悠選手とのやりとりで、彼が手術後の復帰戦で2ゴールをあげた時、ねぎらいの言葉をかけると彼はこう返してきました。

「もっと決められました。自分にくそイラつきます」

この言葉を聞いた時に、悠は常にゴールに貪欲で結果(ゴール)を自分の使命として捉えているのだと感じました。この2人の言葉を聞くだけで、このチームがどれだけ「当たり前のハードル」を上げているかがわかります。小林悠ですらそこに確約されたポジションはなく、少しでも気を緩めればゴールに一番近いポジションを失うことを理解しているのです。

竜也君とはコロナ禍の自粛中に何度もオンラインで話をしてきました。その度に感じたことは、どんな状況になっても自分のできることを明確に捉え、それをどう表現するかを追求していました。それは選手という概念を超えて、研究者とも呼べる領域に入っていたと思います。

僕はそういった研究者思考の人たちの世界観を「ポストイットの世界」とよく呼んでいます。それは、壁一面にポストイットが貼り尽くされている状態を指します。実際にはポストイットを貼っていないと思いますが、頭の中にいくつものシミュレーションを繰り返し、何度も何度も試行錯誤を繰り返しているからこそ、いざという時に一瞬の判断を誤ることなく表現できるのだと思います。そんな選手が川崎Fには数多く存在すると思うと、この優勝は必然だと感じます。

そしてもうひとつは、来年Jリーグが開催されるかどうかの保証などないということです。コロナ禍でスタートした今年のJリーグは降格争いがなく、どこか「今年は仕方ない」「今年はいろいろ難しい」というような空気を感じました。それは僕が所属しているYSCC横浜でも実際に感じたことです。

これは僕の想像ですが、鹿島アントラーズがスタートダッシュしなかったのは、来年に備えていろいろ試したからではないでしょうか。降格がないなら時間をかけて常勝軍団を再構築する考えが出てもおかしくないと思います。ただ、「降格がない今年」という位置づけは「来年がある」という前提のもとに成り立っています。

誰もが予想できなかったこのコロナ禍でのJリーグ。来年のJリーグがあると100%で言うことはできない現状です。東京オリンピック(五輪)ですら何の確約もできない状態が続いていることを考えれば、自然とその発想にもなると思います。

そんな中、川崎Fは「絶対に失いたくないものがある」「絶対に勝ち取りたいものがある」といったマインドを選手のほぼ全員が持っていたことにより、当たり前のハードルがグンと上がっていた。来年の想像よりも、今この瞬間にどれだけベストを尽くし、真剣になれるかがポイントになったのだと思います。

川崎Fは来年も存続できますが、「この中で存在感を発揮できなければ自分はここにいることができない」という危機感が結果的にチームの当たり前を大きく変えた気がします。圧倒的な強さを見せた川崎Fの勝利は、このコロナ禍を生きる上でも必要な要素がたくさん詰まっていると思います。改めて、悠や竜也君にいろいろなことを聞いてみたいと思いました。

そして、僕は深く面識がないですが、中村憲剛選手の存在そのものやあり方がものすごく大きな影響を与えたことは間違いないでしょう。大けがを乗り越え、優勝という形で選手生活を終える彼の功績に心から敬意を示すとともに、最大の賛辞を贈りたいと思います。

最後に、僕が小林悠選手や長谷川竜也選手から感じ取ったプロフェッショナルとは、どんな時でも戦うべき相手は自分の弱さであり、他人ではないということです。そして、それと同時に、自分の弱さを受け入れることで、助け合える本当の仲間に出会えるのだなと思いました。まさに、これからの時代を生き抜く上で必要な互助の精神を学び取ることができました。

今は自助だけでは戦いきれない世の中になり、共助や公助も機能しなくなる世の中です。だからこそ自分と向き合い、お互いを高め、お互いが解決し合う力が必要となるのです。川崎Fの優勝はコロナ禍を生き抜くための互助を僕らに教えてくれた気がします。(J3、YSCC横浜FW)(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

年俸120円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦
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