新聞記者になって25年。うち、サッカーを担当したのは23年で、2年間だけ相撲を担当した。実は96年入社当初から相撲担当を希望していた。「日本のサッカーは世界レベルではない。でも相撲のトップは世界一。外国人として日本の文化を理解するには相撲が一番」という単純な理由からだった。会社の都合もあり、なかなか相撲担当にはなれなかったが、02年11月から1年間、また06年11月から1年2カ月、念願の相撲取材が許された。

サッカーと相撲の違いは? あくまでも個人的な印象ではあるが、ざっくり言うなら「相撲は超保守的で、サッカーは基本保守的だが進歩的な要素もある」。もちろん、深く掘り下げると、それに限らないケースもたくさん出てくる。

それぞれ素晴らしい面がある。相撲は、親方や力士の他にタニマチと言われる後援者や担当記者も保守的な人が多いと感じる。「伝統を守り、後世に伝えていきたい」が本流だ。対してサッカーは「日本特有のサッカーを伸ばしつつ、常に世界を意識して、取り入れながら発展していく」との意識が強い。

サッカー協会やJリーグ、クラブ幹部には保守的な人が多いが、選手、監督らは新しいものを取り入れようと、チャレンジする人も少なくない。もちろんクラブの幹部にも「改革」を口にする人がいるし、私個人としてJリーグの村井満チェアマンが、その代表格だと思っている。

今回、日本相撲協会は協会員全員を対象として新型コロナウイルスの抗体検査を実施するという。力士約700人、親方衆約100人、行司や呼び出しら裏方などを合わせ、約1000人規模だ。終了まで1カ月程度要するとされるが、守りたいものがあるからこその決断だったと思っている。その検査結果で今後、生かせるものも生じるはずだし、なにより、7月場所(19日初日、東京・両国国技館)に向け、一定の安心感が生まれる。

一方、サッカーは、11日の実行委員会後のウェブ会見で、Jリーグ再開に向けて、全選手を対象にPCRなどの検査を実施する予定はあるかの問いに、村井チェアマンは明言を避け「様子をみて」との趣旨ではぐらかした。「村井氏は、サッカー界で最も進歩的なリーダーの1人」と今まで勝手に解釈していた私の予想を見事に裏切る回答だ。

健康で若い選手の集まりだけに、Jリーガー全員を検査した場合、無症状の感染が複数人確認されることもあるだろう。村井氏の答弁には「他になにか守りたいものがあるのか?」と勝手に疑ってしまう。相撲関係者は誰もが「お相撲さんが一番の財産」といい、サッカー関係者は「プレーヤーズファースト」と言う。本当に日本のサッカー界を守るため、最も必要なものはなにか。

22日には、再開に向けた実行委員会が実施される。7月再開が最有力で、再開まで1カ月あまりの猶予がある。みんなが安心してサッカーを楽しむためにも、全員検査に踏み切ってほしい。最後に、全員検査を決断し、実行中の角界に敬意を表したい。【盧載鎭】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、ソウル生まれ。88年に来日し96年入社。先日、新宿区の自宅にアベノマスクが届き、感謝しながらも、うちの家族が使うには少々小さいため、誰かにあげたいと思っている今日この頃。2児のパパ。