Jリーグが、新型コロナウイルスから日常を取り戻すための第1歩を刻んだ。無観客試合での再開とはいえ、サッカーが帰ってきた。2月21日からの開幕節を終えて以来、約4カ月。長かった。プレーする選手も、サポーターも、多くが同じ思いだろう。

感染対策など、各所で度重なる議論の末、再開にこぎつけた。事前にPCR検査を選手と審判ら3070件に実施し、陽性はゼロ。順調に運べば7月からは段階的に観客を入れられる。サッカーの力で各地に活気が戻ることも期待できる。

祝福ムードがある一方、現場は負担を強いられる。選手は飲水用ボトルの共有を禁止された。担当するFC東京を例に挙げると、試合ではピッチ外に自分用のボトルを複数置いて取りに行く方法をとっている。DF室屋成(26)は「いつもは一瞬で飲めるけど、取りに行かないといけないのはいつものリズムと違う。多少のストレスはあるかもしれない」と、慣れないやり方に難しさを口にした。

千葉対大宮 共用を避けるため、番号が記された給水ボトル(撮影・横山健太)
千葉対大宮 共用を避けるため、番号が記された給水ボトル(撮影・横山健太)

大半のチームが約3カ月間、全体練習を行えなかった。準備期間は約1カ月。外出自粛の状態から、再開までに公式戦で戦うコンディションを整えるのが難しい-。そんな声が、多くの選手から出たのも事実。せんだって再開された海外リーグでは、けが人が続出している例もある。「準備と、ある程度の覚悟が必要」と室屋は言った。

けがのリスクを承知で、選手はピッチに立つ。その意義の1つは、見る人を勇気づけることにある。

コロナ禍で想像を超えた“ストレス”を感じた人は多いはず。外出自粛で、飲食店は大打撃を受けた。Jリーグで最も熱狂的とされる浦和サポーターが集まるさいたま市内の居酒屋「酒造力」も例外ではない。今井俊博店長(40)は「元気がなさそうなお客さんがいれば肩をたたいたり、知らない人同士が抱き合ったりして、つながりを大切にしてきた。日常が全部奪われた」と我慢の時間を振り返った。Jリーグが再開しても、そんなあたたかい光景はすぐには戻らない。

それでも、日常が戻ることを信じてできることを尽くす。訪れるお客さんの感染防止のため、消毒や検温に加え「飲みづらいかもしれないけど」とフェースシールドを500円で販売する。その売上金は店の利益にせず、医療機関に寄付することを考えている。コロナを乗り越えようとする人々の思いや行動を支えにして、リーグは再開する。

今井店長は「選手がスタジアムに立つだけで涙する人もいると思う。気持ちがこもったプレーが見たい。勝ち負けはその次」と語った。選手の姿を明日の原動力にする人がいる。勝敗を超えたメッセージを伝えられるか。J2大宮アルディージャの三門雄大主将(33)は再開戦となるジェフユナイテッド千葉戦に先発。「まだまだ大変な思いをしている人もいる。元気を与えられるプレーをしたい」。ピッチに立つ選手全員に、その使命がある。【岡崎悠利】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)