スポーツには力がある。そして、同じように本にも確かなパワーがある。新型コロナウイルス感染拡大で、社会や私たちを取り巻く状況、暮らしも大きく変わった。そんな新たな日常の中でも、アスリートや指導者は必死で戦いを続けている。

日刊スポーツでは、感受性も豊かなトップアスリートや指導者に「私の相棒書」と題し、ステイホームの自粛期間やこれまでの人生で触れて、力をもらってきた1冊を取材。5人の「相棒」紹介します。

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なでしこジャパン監督、高倉麻子(52)

『マリアビートル』(伊坂幸太郎著、角川書店)

伊坂幸太郎さんの本が好きで、中でも『マリアビートル』は物語の構成とテンポ、登場人物のキャラクターが秀逸でした。本当は一気に読んでしまいたいのですが、もったいないのでゆっくり読み進めました。

新幹線が上野駅に到着する場面、終点の盛岡まで連れて行かなければならない大切な人物がすでに亡くなってしまっているのですが、それを生きてるように見せなければならず、登場人物が四苦八苦するシーンの描写がとても面白かったです。

物語を通して、登場人物たちが中学生に翻弄(ほんろう)され続ける感じ、新幹線のスピード感と密室感、展開の巧妙さは、かなり独特の世界観で一気に引き込まれました。

作中のドタバタ劇と同様、人生は何が起きるか分かりません。これはサッカーでも同じことがいえると思います。生きていく中で人間は常に自分で考え、想像し、予測し、行動を起こします。そして、その中で大切なのは、不測の事態に直面した時でも動じず、いかに物事に対応するか。そういったことをあらためて考えさせられた作品になりました。

さまざまに変わる局面、立場など、やけに引き込まれたのは、それがサッカーの試合展開に似ていたからなのかもしれません。

◆高倉麻子(たかくら・あさこ)1968年(昭43)4月19日、福島県福島市生まれ。読売ベレーザ(現日テレ)、米国のシリコンバレー・レッドデビルズなどでMFとして活躍。89年に日本女子リーグ開幕戦で初代得点者となる。女子日本代表として第1回の91年、95年W杯、96年アトランタ五輪出場。国際Aマッチ通算79試合30得点。04年に現役引退して指導者に転向。16年4月になでしこジャパン監督に就任した。