クロアチアは前線からのハイプレッシャーでイングランドのリズムを崩した。

 試合は前半5分、イングランドがMFトリッピアーのFKで先制した。早い時間帯で試合は動いた。ただ、イングランドの選手は1-0でリードしているにもかかわらず、雰囲気が悪くイライラしていた。後半9分にDFウォーカーは相手ボールを渡わず、遅延行為でイエローカードを食らった。この日のイングランドを象徴するシーンだった。

 勝っているのになぜ? その理由はクロアチアの前線の3人、中央のマンジュキッチ、左のペリシッチ、右のレビッチがイングランドのDFラインにしつこくプレッシャーをかけ、前からボールを追ったこと。イングランドは苦し紛れにGKピックフォードに下げる場面もあり、3バックのウォーカー、マグワイア、ストーンズはバタバタした。本来、自分たちのリズムでDFラインからボールを回して攻撃に入りたいところだったが、慌ててしまった。加えて右サイドハーフのトリッピアーを引き出され、クロアチアのFWは3バックの脇のスペースに流れてプレー。そこへずれて守る3バックには負荷がかかり、受け身に回っていた。イングランドは終始ストレスを感じながらプレーしていた。

 また、早くリードしたことでイングランドはセーフティーなプレーに走りすぎた感があった。ロングボールをFWケーンに出してセカンドボールを拾い、そこからチャンスを探った。FWスターリングが背後を突く狙いもあったが、全体的に単調だった。ボールをつなげられる選手もいたので、しっかりボールを動かす必要性があったと思う。

 クロアチアは2試合連続で延長戦を勝ち上がってきたチームだったが、ここでも粘り強く戦えた。中盤を仕切る2枚看板のモドリッチとラキティッチがボールポゼッションし、チームに落ち着きを与えたことが大きい。また、MFブロゾビッチの運動量も光った。この3人の中盤がゲームの流れを読み、試合をコントロールした。チームとしても誰もが万遍なくいろんなことができる。サイドを崩せる、クロスからの攻撃もある、中央からも崩せる。

 延長後半4分のFWマンジュキッチによる決勝点の場面、イングランドは完全に足が止まっていた。逆にクロアチアは集中力が切れなかった。ここまで接戦を勝ち切ってきたことで、一体感がありチームに勢いが生まれている。同時にモドリッチ(レアル・マドリード)、ラキティッチ(FCバルセロナ)といったビッグクラブでプレーする選手たちの経験が、このW杯の大舞台でも効いた。(永井雄一郎=プロサッカー選手、元日本代表)