15年春、羽生結弦は運命のフリープログラムに出会った。「自分の幅を広げたい」と曲を探し、たどり着いたのが安倍晴明の伝奇小説を映画化した「陰陽師(おんみょうじ)」。この劇中曲をアレンジし、自ら「SEIMEI」と名付けた。能や狂言などの動きを取り入れた自身初の和風な演技だった。前シーズンでケガのために断念した4回転3本を組み込んだ。SPは昨季の「バラード第1番」を継続した。

 この2つの演目で伝説を刻んだ。11月、シーズン3戦目のグランプリ(GP)NHK杯(長野)SPで4回転2本の構成に初めて挑んで成功。フリーでも3本の4回転を決める完璧な演技を披露した。SP、フリー、合計のすべてで世界歴代最高を更新。「本当にビックリしました」と、自分でも受け止めきれないほど驚異的な数字だった。

 得点を押し上げたのは進化への強い思いだった。NHK杯の1カ月前、2位に終わったスケートカナダ直後に、SPの4回転を1本から2本に増やすと、オーサー・コーチに直訴。負けた悔しさもあるが、4回転2本が「平昌五輪まで必要になってくる。連覇するために圧倒的に強くならなきゃいけない」とその先を見据えていた。

 安倍晴明に扮(ふん)した妖しげな魅力と、高い技術が重なったフリー「SEIMEI」でさらなる高みに達した。欧米中心のフィギュア界で和風の演技はジャッジの評価が分かれるリスクもあったが、NHK杯のフリーで表現力を示す演技構成点は100点満点に近い97・20点。競技の歴史を変える名作が生まれた瞬間だった。

 わずか2週間後、今度はGPファイナル(スペイン・バルセロナ)で自身の持つSP、フリー、合計の世界最高を更新した。大会後、まだ誰も試合で成功していない4回転ループの挑戦について「要相談」と含みをもたせた。ソチ五輪から2年。既にトップ選手は4回転を複数跳ばないと勝てない時代になっていた。絶えず技術と点数を上げる羽生の存在が「4回転時代」を加速させていった。(つづく)【高場泉穂】

◆2015年(平27)

 11月 GPスケートカナダ2位

 同11月 NHK杯でSP106・33点、フリー216・07点、合計322・40点の世界最高点で優勝

 同12月 GPファイナルSP110・95点、フリー219・48点、合計330・43点で世界最高点を更新して3連覇

 同12月 全日本選手権で29年ぶりの4連覇

◆2016年(平28)

 3月 世界選手権2位

 同4月 「左足甲リスフラン関節靱帯(じんたい)損傷」で全治2カ月と発表