ラグビーW杯2019閉幕から約2週間がたった。準備には時間がかかるものだが、過ぎてしまうとあっという間の9月20日からの1カ月半だった。

この時期になると、メディア露出も減り、あの感動が少しずつ薄れていくころだが、今回のラグビーW杯2019はその予想を覆している。


日本対アイルランド アイルランドに勝利し喜びを爆発させる日本の選手たち(撮影・垰建太)
日本対アイルランド アイルランドに勝利し喜びを爆発させる日本の選手たち(撮影・垰建太)

私はスポーツというフィールドで仕事をしているし、元々アスリートなので、さまざまな場面で「あの大会は大成功!素晴らしかった」などの声を聞き、「日本のラグビーワールドカップは本当に成功だったね」と海外からも連絡が来る。

それだけでなく「日本ラグビーのレベルが上がったよね」など、人気と比例して日本の競技力向上も認知されていることが、私自身も体感できている。

2015年大会を振り返ると、どうだっただろうか。私は当時、ラグビーファンになって数年がたっていて、国内のトップリーグや大学ラグビーも観戦、取材と行かせていただいていたので、選手の頑張りが報われて欲しいという一心で、「南アフリカに勝てる」と信じることが選手やスタッフへのリスペクトだと感じていた。関係者、日本のトップリーガーなども、代表チームを信じて観戦した。

ただ、大半の人は違った。「ラグビーって今までもテレビでやっていたけど盛り上がってないよ」「ラグビー関係者しか興味ないんじゃないの」。そんな声が多かった。「本当にあるの?」と、大会の開催自体、知らない人も多かった。


姫野のジャッカル
姫野のジャッカル

エディー・ジョーンズHCのハードワークは定評があり、選手たちもその当時「一番きつい」など話していたのが印象的だった。1年のほとんどを合宿に費やし、準備してきていた。“Brave Blossoms”は、当時も「ベスト8」を目標に掲げていたのだ。

いざ試合が始まり、日本中が熱狂した。イングランドで行われていた大会。時差の関係で南アフリカ戦は深夜に行われた。私はラグビー選手や関係者とパブリックビューイングで観戦していたが、リーチ・マイケル選手が最後にスクラムを選択し、勝利を勝ち取った瞬間、一緒に見ていたラグビー選手たちが涙したのを覚えている。

もし私が現役のアスリートで、あの場に立てなかった選手だったら、涙するほど応援できただろうか。私がラグビーを好きな理由の1つはそこにあるのだ。

ほとんどのアスリートは、たまたま幼少期に出合ったスポーツに夢中になり大成していく。途中でなぜこのスポーツなのかと悩む人もいれば、これこそが自分にあったスポーツだと感じるアスリートもいる。

ラグビー選手に関して言うと、ほとんどが心からラグビーが好きなのだ。そして「ラグビーを広めたい!」と思っているのだ。

今大会、なにが人々の心をそれほど動かしたのだろうか。

もちろん日本の活躍は本当に素晴らしかった。予選全勝、アイルランド戦は2015年の南アフリカ戦を思い出すような感動をもらった。

「ジャッカル」

「オフロードパス」

日本の技術も誰が見ても上がり、4年間準備に全てを費やしてきた選手やスタッフ全員に拍手を送りたいし、日本人としても誇りに思える。こんなうれしいことはなかなかない。「にわかファンだけど、いいんですか?」こんな話をよくされるが、ラグビーやっている人、やってきた人で「ダメです」なんていう人はいない。選手はラグビーを広めたいし、大好きなのだから。


ラファエレのオフロードパス
ラファエレのオフロードパス

もう1つ大きな要因としては、前回、前々回のこの欄でも触れたが、「ラグビー精神」をみんなで分かち合えたこと、「感じる」ことができたことだろう。初めて観戦した人が「勝利だけが楽しみじゃない。相手の国を知り、リスペクトしあえるところが楽しい」と話していた。まさにそうだ。

観戦するときもホームアンドアウェーのシステムはなく、観客は敵味方関係なく応援する。いいプレーには敬意を払い、相手の勝利をたたえ、敗者にも拍手を送る。

目の前で、このラグビー精神が見ることができたと思う。そして、これこそがスポーツの価値だと感じたはずだ。

今回のラグビーW杯のテーマは「ユニティ」。一体となって一緒にこの試合を作り上げることとしている。この一体感は準備してきた人たちにとって大切なものだったのだ。だから、私たちにその思いが伝わって、いろんな方がいう「大成功」だったのだ。自然に成功したのではなく、この思いが成功につながった。

実は今、スポーツ界はゴールデン・スポーツイヤーズの真っただ中だ。このラグビーW杯2019年、来年は東京2020、そして再来年は関西ワールドマスターズゲームズもやってくる。2021年は福岡で世界水泳も行われる。

この世界のプラットフォームになる瞬間、この感動や勇気をどうやってレガシーとして残していくか。まずは、1月12日から日本の最高峰であるトップリーグ、16チームの総当たり戦が開幕する。江東区夢の島競技場での試合は初開催。全部で120試合が行われる。国内での試合への準備も選手たちはずっとしてきている。このラグビー精神をまた感じられる場所があることは本当にうれしいことだ。

いちファンとしても、アスリートとしても、この素晴らしい精神を持つラグビーがずっとずっと愛されるスポーツであることを心より願っている。このバトンは未来へつなげていくしかない。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)