突然の“二人三脚ゴール”に東京・国立競技場が大歓声に包まれた。1991年、陸上世界選手権の男子50キロ競歩。先頭で肩を並べて競り合っていたソ連(当時)のポタショフとペルロフがゴール15メートル手前で、どちらからともなく肩を組み、そのまま並んでフィニッシュしたのだ。
写真判定の結果、ポタショフが金、ペルロフが銀と順位がついたが「50キロも並んで歩いてきたんだ。ゴールで1位と2位を決めることはない」と、数年前から同じコーチのもとで一緒に練習してきた2人は笑っていた。メダルの色さえ超越した深い友情に胸を打たれた。過酷な50キロを歩き抜いた後、再び肩を組んでウイニングランに走りだす姿が印象的だった。
15日の世界選手権の男子マラソンで、金メダルを競い合ったシンブ(タンザニア)とペトロス(ドイツ)が同タイムでゴールに飛び込んだシーンを見て、あの34年前の光景を思い出した。着順は写真判定となり、フィニッシュラインに先に胸が触れたシンブの金メダルが決まった。
世界陸連によると2人の差はわずか0秒03。500円玉の直径ほどの差である。蒸し暑い真夏の42・195キロの戦いを、100分の1秒まで解析して順位付けすることに何の意味があるのか。短距離ではないのだから同着の金メダルでいいではないか。何より2着のペトロスが気の毒だった。
そんな割り切れない気持ちは、レース後のペトロスのコメントで霧散した。「悔しいけどタンザニアの選手の勝利を心から喜んでいる。これがスポーツであり、私たちが競い合う理由だ。銀メダルに感謝する姿勢が大切だ。母はきっと私のことを誇りに思ってくれるはずだ。母さん本当にありがとう。これはあなたへの贈り物です」。
金メダルの輝きをはるかに超えて、キラキラと光るスポーツマンシップの美しさ。彼の言う通りこれがスポーツなのだ。あの34年前と同じ、幸福感に満ちた熱いものが再び胸に込み上げてきた。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「スポーツ百景」)



