愛知・名古屋アジア大会が19日に開幕する。1994年の広島大会以来、32年ぶりに国内開催。陸上男子10種競技では日本歴代4位(8008点)の記録保持者、奥田啓祐(29=ウィザス)が、金メダル獲得に燃えている。
6月の代表選考を兼ねた日本選手権で4年ぶり2度目の優勝。競走、障害、跳躍、投てきの計10種目を2日間でこなし、合計点で順位を争う。その消費カロリーは2万キロを超え、勝者は「キング・オブ・アスリート」と呼ばれる。奥田は最終種目の1500メートルで自己新記録をマーク。しかし、合計7512点のスコアに「恥ずかしい記録で勝ってしまった」。
4月の米国遠征前には右アキレス腱(けん)を故障。手負いの中、豪雨で迎えた同選手権1500メートルの前、ある男の言葉が奥田を「ここの優勝は譲ってはいけない」と奮い立たせた。
「ここを乗り越えられたら楽になるから、最後まで出し切ろう」。
言葉の主は、同選手権を引退試合に選んでいた元日本記録保持者の右代啓祐。12年ロンドン五輪で日本勢48年ぶりの出場となった元日本記録保持者は試合前から楽しそうな表情を浮かべていたが、奥田に完全燃焼の真剣勝負を呼びかけた。
20年には鹿児島で右代と16年リオデジャネイロ五輪代表の中村明彦さんと合宿をする機会にも恵まれた奥田。「大きな一歩よりも着実な一歩」と世界で戦う2人から混成競技の極意を教わってきた。
東京・駒大高ではやり投げに打ち込んだが、全国高校総体には届かなかった。自己推薦で入学した東海大で10種競技を始め、地道な努力で4年時に関東学生対校選手権(インカレ)1部を制覇。のちに日本新記録(8321点)を打ち立てる日大の丸山優真(現住友電工)と競り合う存在となった。厳しい合宿をともにしてきた右代からも「(奥田と丸山の)2人が次の(日本選手権の)優勝者になってくれたらうれしい」と期待もされてきた。
大先輩の教えに奥田は「目の前のことに丁寧に向き合い、自分らしくやって1個ずつステップアップすること。人生も10種もそう簡単にはうまくいかない。2人のおかげで自分の力を試合で出し切れるようになった」。だからこそ、最後の右代との日本選手権では「8000点台で優勝して恩返しをしたかった」と自身の不完全燃焼を悔やんだ。
今年4月の米国の競技会では丸山が、右代の従来記録を上回り、12年ぶりの日本新を樹立。練習仲間でもあるライバルの躍動を目の前で見た奥田は「悔しいけど、一緒に練習している分、俺もここからやってやる」と逆に火がついた。
偶然にも、名はアジア大会2連覇の右代と同じ「啓祐」で、日本歴代3位の中村さんとは10月23日の誕生日が一緒。大学からデカスロンの世界に飛び込んだ奥田自身も笑って「これって何かの縁ですよね」と語る。
10種競技の初日は25日。国内開催の祭典では丸山との日本代表対決にも注目が集まる。「何度もあるチャンスではないし、現役最後のつもりで挑んでいきたい。やっぱり、君が代は流したいですよね」。先人たちに続いてアジアの頂を極め、新たな時代をつくる。【泉光太郎】



