ラグビーの19年W杯日本大会で唯一の新設会場となる岩手県釜石市の「釜石鵜住居復興スタジアム」のオープニングイベントが19日に行われた。

 トップリーグ(TL)下部の地元チーム、釜石シーウェイブスとTLのヤマハ発動機による記念試合の前には、釜石高2年の洞口留伊さん(16)がスタジアムのキックオフ宣言を行った。

 釜石で生まれ育った洞口さんは、釜石東ロータリークラブが地元の中学生を対象に募集した15年W杯イングランド大会の視察に応募し、現地でラグビーの魅力を知った。

 被災した7年前は鵜住居小の3年生。水没した学校は移転したが、その跡地にできたスタジアムのキックオフに立ち合い「文章は1カ月くらい考えた。自分の思っていることを発信できたと思う」と話した。

 

 キックオフ宣言の全文は以下の通り。

 

 わたしは、釡石が好きだ。海と山に囲まれた、自然豊かな町だから。わたしは、釡石が好きだ。空気も人の心も、温かくてきれいな町だから。わたしは、ラグビーが好きだ。釡石でのラグビーワールドカップ開催を知り、市が募集をしたラグビー親善大使に応募して2015年のイングランド大会で人生初のラグビーを観戦し、会場の雰囲気とその迫力に圧倒されたから。わたしは、ラグビーが好きだ。試合後、ファン同士が敵味方関係なく握手をし合い、一緒になってゴミ拾いをしている姿に感銘を受けたから。

 7年前の3月11日。小学校3年生だった私は、算数の授業を受けていた。防寒着を来て、校舎の5階へ逃げた。土砂崩れが起きて、もっと高くへ逃げた。うしろを振り返れば、鵜住居を飲み込む津波が見えたかもしれない。けれど、私は「とにかく逃げなきゃ」と焦っていた。たまたま通りかがったトラックに乗って、町の体育館へ避難した。

11列に並んで2人ずつ分けたおせんべい。コップ一杯の水。そのときの自分の気持ちはうまく思い出せない。数日たっておにぎりを1つ食べられたときに、食べられること、生きていることのよろこびをじんわりと感じたことは覚えている。

 当時の私に、「この町にラグビーワールドカップがやってくるよ」と伝えても、きっと信じてくれないだろう。2019年。大好きな釡石のまちで、大好きなラグビーの国際大会が行われる。そして、このスタジアムは、完成した。そして、釡石は、世界とつながる。いま、私がしなければならないことは、あのとき、釡石のために支援をしてくれた日本中の、そして世界中の人たちにあらためて感謝の思いを伝えることだと思う。そして、私がイングランドで感じたように、町を盛り上げることが大切だと思う。このスタジアムがつくられたのは、私の小学校があった場所。入学するはずだった中学校があった場所。そして、離れ離れになってしまった友だちと、また会える大切な場所。

 今日は、そんな思いのつまったスタジアムが生まれた日。日本中の釡石を愛する人たちと、世界中のラグビーを愛する人たちと、この日を迎えられたことを祝い、そして感謝したい。

 Thank you everyone in the world for your support.

 We have recovered and will move on wards from the earthquake.

 We are looking forward to seeing you in Kamaishi next year.

 このスタジアムはたくさんの感謝を乗せて、いま、未来へ向けて出航していく。

 未来への船出

 2018年8月19日

釡石高校2年 洞口留伊