男子100キロ超級の中野寛太(23=旭化成)が初優勝した。16年リオ五輪銀メダルの原沢久喜(31=長府工産)と決勝で対戦。8年ぶりに復活した旗判定で競り勝った。全日本2度Vの穴井隆将監督(39)に天理大で鍛えられ、夢の28年ロサンゼルス五輪に向けて第1歩を踏んだ。原沢は6年ぶり3度目の頂点に届かなかったが、現役続行には意欲を示した。男子100キロ超級の斉藤立(22=JESグループ)らパリオリンピック(五輪)代表内定者は出場していない。

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8分間の決勝に8年ぶりの旗判定が決着をつけた。笑ったのは中野だ。見える旗は赤白1本ずつで、背後の副審を振り向くと自身の赤が上がっていた。2-1の僅差で念願の日本一。両拳を握って、万感の表情で「最高です」と愛くるしかった。6度目の出場で初めて制し「夢みたいな感じもする。終日、我慢を心に置いて戦えた」と納得した。

天理高を27年ぶり、天理大を29年ぶりの団体日本一に導いた。182センチ、128キロ。2年前はリオ五輪銅の羽賀龍之介に、昨年は東海大1年の新井道大に、ともに階級が下の100キロ級に2回戦で屈した。「甘さに気付かされた。意味ある敗戦」。社会人2年目。睡眠や食事から見直し、今月の選抜体重別で敗退した後は、拠点の天理大で穴井監督が1週間の個人合宿に付き合ってくれた。終わりの見えない乱取り地獄。その成果は準決勝で色濃く表れた。前年王者の王子谷剛志にわずか36秒の小外刈りで一本勝ち。勢いに乗った。

パリ五輪代表の斉藤は1歳下。高校時代から何度も日本一を分け合ってきた。目指す4年後のロスへ「パリの後に始まる選考で当たる。絶対に意識しないといけない選手。挑んでいきたい」。最重量級の2強時代へ、最も権威ある称号を中野もつかんだ。【木下淳】

■8年ぶり旗判定 積極的な技の応酬

8年ぶりの旗判定復活で延長戦が廃止されたことにより、序盤から積極的な技の応酬で館内は盛り上がった。全柔連の金野強化委員長は「いち柔道ファンに戻ってしまうくらい面白い試合が続いた。大きな違和感はなかった」と語った。昨年までは国際大会のルールを大幅に採用。時間無制限の延長戦があるため、膠着(こうちゃく)状態からの指導で決着が少なくなかった。初優勝した中野は「団体戦のように5分、8分で力を出し切れる。覚悟を決めやすい」と歓迎した。

■原沢久喜、負けて笑顔

準優勝の原沢は負けても笑顔だった。3回戦で小川直也氏の長男雄勢、準々決勝で影浦心と実力者を連破。リオで銀、東京で5位と2度の五輪後は苦しい時期が続いたが、全日本6年ぶりの決勝進出。準優勝で次回の推薦枠も得て「来年も出られるので、もう少し頑張ろうかな」と意欲的になった。100キロ級でリオ銅の羽賀は3回戦敗退。昨年まで4大会で3度の決勝進出も、今年は全柔連の強化選手を辞退までして専念しながら力尽き「戦い終わったホッとした気持ちは正直ある」と進退を決断したようなコメントを発した。

◆中野を指導した天理大の穴井監督 感無量。1つも楽な試合はない中で、我慢に我慢を重ねて、寛太らしい、しぶとい柔道を見せてくれた。やはり我慢。全日本はとにかく1回取らないといけなかった。「結果にこだわって我慢しつつやるんだ」と(27日に)本人にも伝えていた。教え子が全日本で優勝するのは、自分が優勝するよりうれしい。