F1日本GP過去の歴史

【1988年10月31日付本紙より】

セナ初の総合王座! ホンダも地元初V!

 ◇10月30日◇決勝◇三重・鈴鹿サーキット(1周5・85943キロ)全51周◇参加26台、完走17台◇曇り一時雨◇観衆12万1000人

 本田技研の創始者・本田宗一郎最高顧問(82)が見守る前で、ホンダF1が日本で初勝利を挙げた。アイルトン・セナ(28=マクラーレン・ホンダ)は、壮絶な死闘の末、シリーズ王者を争うアラン・ブロスト(33=同)を振り切りシリーズチャンピオンを決めた。ホンダは、最終第16戦豪州GPを待たずに、製造者とドライバーの2連続ダブルタイトルが決定。中嶋悟(35=ロータス・ホンダ)が7位。初挑戦の鈴木亜久里(28=ラルーズ)は16位と大健闘した。

24年目の感激

 ホンダ・チームのスタッフに「オヤジ」と呼ばれている本田宗一郎最高顧問が、28歳のセナをきつく抱きしめた。1964年8月、ドイツGPで国産初のF1マシンを自らの手で走らせた偉大なる父。そのときから本田技研は「勝つために努力する集団」として、F1世界制覇へ一丸となって戦ってきた。

 それから24年、本田会長は目の前で初めてホンダF1の勝利を見た。おととしの豪州、昨年の鈴鹿と、3度目の正直だった。地元日本で初勝利は、創始者への最高のプレゼントとなった。「やっとF1が自分のものになったという感じ。私の前でホンダが1、2位、しかもチャンピオンが決まったなんて感慨無量です」と、会長は体を震わせ相好を崩した。

涙で立てない

 ホンダに勝利をもたらしたのは、セナだった。勝てば初のシリーズ王者が決まる一戦で華麗な逆転勝利。栄光のチェッカーを受け、1周のウイニングランに入ると感極まり泣き出してしまった。涙で前が見えず、S字カーブ付近でヘルメットの風防を開けた。戻ってきてからも、両手で顔を覆い立ち上がることさえできなかった。「初めてのチャンピオンを取れる態勢になった」(セナ)今季、14戦中優勝7回。予選1位が11回と圧倒的な強さを見せつけてきた。「機械のような」といわれる男が、表彰台では感情をむき出しにした。「ようやくチャンピオンへのプレッシャーがなくなったよ。最高にうれしい」。

 壮絶な死闘だった。12回目の予選1位も、緊張からスタートに失敗。7番手から追い上げを開始した。トップは、逆転王者には残り2戦を連勝するしかないプロスト。2位カペリと激闘を演じるチームメートの後方へ11周目3位と接近。2位カペリがリタイアの後、20周目からは激しいデッドヒート。そしてついに、27周目、2台の周回遅れを前に減速したプロストのスキをついて、一気に首位に躍り出た。

Wタイトルだ

 その瞬間、ピットでは指揮を執る後藤治総監督と、マクラーレンのオーナー、ロン・デニス氏が顔をつき合わせて相談をしていた。「二人の一騎打ちになったから、ピットから一切のサインを出すのをやめて、彼らの判断に任せることにしたんです」と後藤監督は話した。

 「ドライバーと一緒に考えていく」ホンダのF1戦略も、プロスト、セナという超一流選手のしのぎ合いに、ただ見守るしかすべがなかった。まさに技術を超えた男と男の戦いだった。一瞬のスキが勝負の明暗を分け、セナが勝ち、プロストは敗れた。「レースをコントロールしていたのに、渋滞でセナにやられちゃったよ。今日のセナは強かった」。2度目の世界チャンピオンを獲得したプロストは、静かに負けを認めた。

 ホンダはこれで、製造者部門に次いでドライバーのダブルタイトルに2年連続輝いた。悲願の地元Vも達成。来シーズンからは王者として、ヤマハ、富士重工の国産新加入メーカーの挑戦を受ける。F1新時代の予感が鈴鹿を包んでいた。【桝田】

 ◆残りリタイアした昨年総合王者のピケの話「リタイアは体調不良のため。胃が悪く、レース中めまいがしたのでやめた。F1も運動競技だよ」。

 ◆アイルトン・セナ ブラジル出身の28歳。1984年ブラジルGPでデビュー。F1GP77回出場で優勝は通算14回。モナコ在住。独身。


中嶋スタート失敗で7位

 中嶋は昨年の6位にあと一歩及ばなかった。メキシコGPと同じく、自己最高の予選6位。だが、レース開始直後にエンジンがストップ。下り坂を利用して再スタートしたが、21位まで下がってしまった。「普通だったら止まっておしまいなんですけど、だれかが後ろから押してくれた」と中嶋。3周目にはスタンド前の直線で鈴木も抜いた。気迫の走りで14台を抜いたが、目標の入賞には届かなかった。

 公式予選初日(28日)に母親のタマさん(73)を亡くしていた。レース後、すぐに自分の車でサーキットを離れ、午後7時からタマさんの本通夜。本当の笑顔は見られなかったが、大きく成長したF1ドライバーとしての走りは鮮烈だった。来季は、ホンダを離れ、文字通り自立してアロウズ・チームへ移籍することが有力視されている。来月8日には、豪州GP(13日)出場のため、再び日本を離れる。


速いホンダにヤッカミ?

 レースは午後2時40分に終了したが、結果が確定したのはなんと午後6時。マクラーレン・ホンダの2台があまりにもパワーがあるため、他のチームからクレームが付き、「エンジンを分解して検査している」とのウワサも流れた。FISA(国際自動車スポーツ連盟)は「抗議は来ていない」と発表したが、後日2車のエンジン検査とベネトン・フォードの3台の燃料を再チェックすることに。速すぎる日本車への嫌がらせと見るのはうがちすぎか?

順位 ドライバー チーム・エンジン タイム
A・セナ マクラーレン・ホンダ 1時間33分26秒173
A・プロスト マクラーレン・ホンダ 1時間33分39秒536
T・ブーツェン ベネトン・フォード 1時間34分02秒282
G・ベルガー フェラーリ 1時間34分52秒887
A・ナニーニ ベネトン・フォード 1時間34分56秒776
R・パトレーゼ ロータス・ホンダ 1時間34分34秒551
中嶋悟 ロータス・ホンダ 1周遅れ
P・ストレイフ AGS・フォード 1周遅れ
P・アリオー ローラ・フォード 1周遅れ
10 M・グージェルミン マーチ・ジャッド 1周遅れ
11 M・アルボレート フェラーリ 1周遅れ
12 J・パーマー ティレル・フォード 1周遅れ
13 P・マルティニ ミナルディ・フォード 2周遅れ
14 J・ベイリー ティレル・フォード 2周遅れ
15 L・ペレス・サラ ミナルディ・フォード 2周遅れ
16 鈴木亜久里 ローラ・フォード 3周遅れ
17 R・アルヌー リジェ・ジャッド 3周遅れ
  A・デ・チェザリス リアル・フォード 37周目リタイア
  E・チーバー アロウズ・メガトロン 36周目リタイア
  N・ラリーニ オゼッラ 35周目リタイア
  N・ピケ ロータス・ホンダ 35周目リタイア
  N・マンセル ウィリアムズ・ジャッド 25周目リタイア
  A・カフィ ダラーラ・フォード 23周目リタイア
  I・カペリ マーチ・ジャッド 20周目リタイア
  D・ワーウィック アロウズ・メガトロン 17周目リタイア
  B・シュナイダー ザクスピード 15周目リタイア
1位の平均時速は191・894キロ
最速ラップはセナの1分46秒326(33周目)平均時速は198.389キロ
タイヤは全車グッドイヤー。


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