シンデレラガールが東京オリンピック(五輪)代表の座を射止めた。一山麻緒(22=ワコール)が冷たい雨をものともせず、日本歴代4位の2時間20分29秒で優勝した。1月の大阪国際で松田瑞生(ダイハツ)が記録した2時間21分47秒を上回って条件を満たし、マラソン女子代表の最後の1枠に決まった。

野口みずきが持っていた2時間21分18秒の日本人国内最高記録を塗り替え、大会記録も更新した。

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最後の約2キロ、苦しみではなく喜びから表情がゆがんだ。勝利を、そして東京五輪切符を確信した一山が、涙を浮かべながらラストスパート。五輪へと続くゴールテープを切り「今日みたいな日が来るのが夢だった」。2時間20分29秒の優勝記録は、松田が大阪国際で出した2時間21分47秒を上回るどころか、野口の日本人国内最高も17年ぶりに更新。16年リオデジャネイロ五輪金メダルのスムゴング(ケニア)の自己ベスト2時間20分41秒よりも速い好タイム。それでも指導する永山監督は「タイムは想定内」と平然と話した。

冷たい雨が降り、スタートから早々にペースメーカーの1人が脚を痛めて脱落したほどの悪条件だった。しかし、序盤からハイラップを刻む先頭集団の中で、一山は悠然としていた。「30キロまではジョギング感覚は言い過ぎだけれど、ゆとりを持って走れた」と冷静にその時を待っていた。

30キロ付近でペースを上げ、9人近くいた集団から抜け出しに掛かった。ここからの5キロで16分14秒の最速ラップを刻み、必死に食らいつこうとする2人の外国勢を振り切った。タイムは前半より後半が23秒速い。日本陸連の瀬古リーダーが「ペースを上げすぎかな。ランニングハイになってしまったかな」と言う心配も杞憂(きゆう)に終わるほど、力強く駆け抜けた。

緻密な練習が、五輪への道を切り開いた。米アルバカーキでの高地合宿では5キロ走×8本のうち6本目までを伴走者と1キロ3分20秒ペースで走り、最後2本は単走でペースを上げる練習を行った。この日のレースと同じラップを体に染みこませ、一山は「練習してきた通りの走りができた」。9月のMGCでは積極的にレースを引っ張ったが失速して6位。課題の後半を「鬼メニュー」で克服した。

高校では目立つ実績はなかったが、2年のときに名門ワコール入りを決意。入社すると永山監督から「(指導者として)5回目の五輪は君で行くよ」と伝えられた。監督が「とても素直」と評する性格で、秘めた素質と能力を磨いてきた。東京五輪に向けて「もう1段階、質の高い練習をしなければ。日本代表として格好いい走りを」。残り約半年で、さらなる成長曲線を描く。【奥岡幹浩】