世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、東京オリンピック(五輪)はどうなるのか。21日、国際オリンピック委員会(IOC)が今月2度目の臨時理事会を来週にも開催する方向で調整していることが判明、各国のオリンピック委員会(NOC)などから延期すべきとの意見も相次ぐ。連日多くの報道もあり情報も交錯。最優先されるべき存在の選手は、何を思うのか。東京五輪出場に手が届く位置にいるアスリートが日刊スポーツの取材に本音を告白した。

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政府が新型コロナウイルス感染拡大を避けるための方針を発表した2月末から、練習環境の確保が難しくなりました。昨年は海外で1カ月ほど練習することもありましたが、今は海外に行くことすら難しい状況になっています。国内で練習場所を探しては、長い移動の繰り返しです。移動の疲れがすごいです。長い移動では、感染リスクも高まります。しかし、移動しないと練習ができない。すべて実費なので経済的にも余裕は全くありません。

今、五輪について開催や中止、無観客などさまざまな報道が出ています。私の競技でも、東京五輪代表へとつながる大会の延期の可能性が出てきました。もし通常開催になった場合、代表に決まってから、短期間で本番を迎えることになります。短い期間にピークを2度もってくる。これでは、はっきり言って体がもちません。代表選考の場には、全てを犠牲にして臨みます。もし、その後十分な準備期間もないまま、世界で一番大きな大会があったとしても、ベストパフォーマンスは出せません。

代表選考にかかわる日程が変わることでコンディションや練習計画など、これまで積み上げてきたものは、また1から作り直しになる可能性があります。「パンクする」と投げやりにすらなりますが、「五輪のためだから」と何とかメンタルを保てています。

本来、五輪は選手がいてこその大会だと思います。しかし、最近の政府などの対応を見ると、選手のことを全く考えていない。「アスリートファーストの精神はどこにいった」という状態です。あくまで通常開催と言っていますが、開幕前に、アスリートがそれぞれ調整具合などを確認するつもりでいた大会の多くは延期や中止。そこには矛盾しか感じません。

こんな状況になる前は、2020年に東京五輪を開催してほしいと思っていました。世界には自宅待機を余儀なくされているアスリートもたくさんいます。SNSで、その様子を見ていると、本当にアスリートファーストを考えているならば、早く答えを出して欲しい。そして終息した時、全選手がフェアな状態で東京で戦いたい。そう思います。

早く決めていただければその期間、しっかり準備をすることができ、最高の状態で五輪に臨むことができます。すでに内定が出ている選手もいます。しかし、私のような選手は「もうやりたくない」と心理的に追い込まれる中で迎える選考の大会を含め、数々の至難を乗り越える必要があります。

今、私は五輪出場に手が届く位置にいます。こんなチャンスは2度とない。でも正直、何が正しいのか、分かりません。一生に1度しかないかもしれない瞬間。夢の舞台。そこにベストを合わせられないのは嫌です。最高の状態で、この東京の舞台で世界を相手に戦いたいのです。