国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長と丸川珠代五輪相が19日、東京五輪を取材する報道関係者に対し、ワクチンを接種するよう要望した。IOC調整委員会の会議冒頭でそれぞれ発言した。

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海外から来日予定の報道関係者は約3万人。入国後は、翌日から3日間の隔離や、14日間の活動計画書の提出が義務づけられている。彼らは組織委員会が準備するホテルに泊まることが推奨されるが、それ以外のホテルにも宿泊することができる。当然、行動管理の徹底が求められるが、入国14日間を過ぎれば公共交通機関も利用できる。

海外メディアの自由な行動に不安を感じる国民も多い。「本当にメディアの行動規制ができるのか」との声もある。海外からの報道関係者がワクチンを接種して来日すれば、これらの不安も多少は払拭(ふっしょく)できる。

一方、国内メディアの接種はどうなるのかという疑問が生まれる。日本では高齢者の接種もまだ十分ではなく、早ければ6月1日から始まる五輪代表選手への優先接種にも「なぜアスリートだけ優先なのか」と批判の声が上がっていた。

それでも、IOCが世界のアスリートに対し「日本国民を安心させるためにもなるべくワクチンを接種して日本に行ってほしい」と呼びかけているのに、ホスト国の選手だけ接種していないのは問題だとし、日本選手の優先接種の環境も整いつつある。IOCが米ファイザー社からワクチンの無償提供を受けたことも追い風となった。

その経緯を考えると、報道関係者でもアスリート接種問題と同様の批判が巻き起こるのではないか。五輪の取材パスを有して現場を取材する報道関係者は中堅や若手が多い。国内における通常のワクチン接種スケジュールから見ればそんな世代に対し、五輪開幕前にワクチンが回って来ることは考えにくい。

では国内メディアへの接種は推奨しないのだろうか。すると、アスリートの時と同じく世界から「海外メディアは接種しているのに、ホスト国のメディアは接種していなくて良いのか」との声が上がる可能性もある。

感染対策として記者同士2メートルの距離を保つとしてもミックスゾーン(選手の取材エリア)では国内、海外メディアが一堂に会する。会見場も同様だ。国内メディアが未接種の場合、海外メディアは納得するだろうか。

ワクチンを前提とせずコロナ対策を講じ、安心安全な大会にすると言い続けたIOCや組織委員会、政府だが、ここに来てワクチンに頼る傾向が強まってきた。ただ、国内と海外のワクチン接種率に隔たりがある今、ワクチンに頼れば自ずと矛盾が生じる。【三須一紀】