男子テニスの錦織圭(31=日清食品)は10日の1回戦後の会見で、東京オリンピック(五輪)開催について、「アスリートのことだけを考えれば、やれた方がいい」が、「(新型コロナで)死者がこれだけ出ているということを考えれば、死人が出てまでも行われることではない」と、胸中を明かした。テニスは、五輪が最高峰ではないが、16年リオデジャネイロで五輪に目覚めただけに、複雑な思いだろう。

確かに、テニス選手は、五輪が中止になっても、それほど大きな痛手は被らない。錦織も、リオの3回戦あたりまでは「何を目的に戦っているのか分からなかった」と話していた。世界ランクのポイントも賞金もない。世界の頂点なら4大大会がある。

大会期間中、選手村で食事をしているときに、メダルを取った選手を、多くの人が喜び祝福していた。それを見た後、「みんなのために頑張るという目標でもいい」と心を決めた。その時から、五輪に対する考えが変わったと話した。

もともと日本代表戦は好きだ。日の丸を背負うことに誇りも感じるタイプだ。五輪への思いが変わり、東京五輪も楽しみにしていたからこそ「選手のためだけなら、(開催)できた方がいい」とも思う。ただ、新型コロナに感染した自身の経験からも「1人でも感染者が出るなら気が進まない」とも感じている。

錦織や大坂なおみが、はっきりものを言うことに驚く人は少なくない。テニス選手にとって、自身の意見を話すのは自然な行為。ツアーでは、試合の勝敗に無関係で、要請があれば必ず会見を行わなくてはいけない。拒否すれば罰金だ。その会見で、必ず多くの質問が飛び、自分の考えを聞かれる。だから、今回も言葉を選びながらも、いつも通り、自身の考えを語っただけである。【吉松忠弘】