
【ラグビーstory】浪花節の街に生きた駅員ラガー 「誇り」の花園、支えた男/下
なぜこんなに弱いのに、なぜこんなにも愛されているのだろうか。ラグビー「リーグワン」で奇跡的に1部残留した花園近鉄ライナーズのことである。負け続けても、応援してしまう何かがある。プロ選手とともにチームを支えるのは駅員をする社員選手。昔も今も“浪花節”があった。
ラグビー
〈リーグワン花園奇跡のドラマ/浅岡勇輝編〉
近鉄の鶴橋駅勤務、春に引退し社業専念
浅岡勇輝(あさおか・ゆうき)
1992年(平4)10月23日、京都府生まれ。ラグビーをしていた父の影響で6歳の時に南京都ラグビースクールで競技を始める。京都外大西高では花園出場歴はなく、京産大を経て15年春に近鉄入り。入社1年目から社業をしながらラグビーを続けた。1番と3番の両方のプロップをこなす。173センチ、105キロ。
脳振とう、2年間復帰待ってくれたチーム
JR大阪駅から環状線に揺られると、15分ほどで鶴橋に着く。
ホームに出れば近鉄線に乗り換えができる「JR・近鉄連絡改札口」が見える。
駅の周辺には焼き肉店が多いから、肉を焼いた匂いが漂う。その改札を通ると直接、近鉄線のホームにつながっている。
そこに、大柄な駅員がいる。
浅岡勇輝。この春まで現役のラガーだった。
誰よりもライナーズを愛する彼が、30歳で引退を決めたのには理由がある。
「ラグビーが大好きな思いは変わっていないですけれど、僕には奥さんと子供がいる。
次、またなったら危ないと、そう言われていました。
これからの長い人生を考えると、もう無理はできなかった。
もし僕が独身だったら、かたくなに『まだラグビーがやりたい』と、そう、言っていたと思います」
体は悲鳴を上げていた。
これ以上プレーを続ければ、日常生活に支障が出る恐れもあった。
2年間試合に出ることなく、静かにユニホームを脱ぐ決断をした。
最後に出た公式戦は2021年4月25日、トップリーグ・プレーオフトーナメントの2回戦。会場は慣れ親しんだ花園、相手は強豪のパナソニックだった。
既にその頃には、重度の脳振とうがクセになっていた。
「ボクサーに例えるならパンチドランカー、そんな感じです。
タックルに入る時、ちょっとしたことで脳が揺れてしまう。
頭がボーッとするのが続いて、頭痛もある。
仕事にも支障が出て、休まざるをえなくなることもありました」
パナソニック戦からしばらくして出場した練習試合で、味方選手とぶつかった際に再発。以来、丸2シーズンを棒に振った。
それでも戦力として、復帰の機会を待ち続けてくれていた。
それがライナーズというチームである。
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茨城県日立市生まれ。京都産業大から2000年大阪本社に入社。
3年間の整理部(内勤)生活を経て2003年にプロ野球阪神タイガース担当。記者1年目で星野阪神の18年ぶりリーグ制覇の現場に居合わせた。
2004年からサッカーとラグビーを担当。サッカーの日本代表担当として本田圭佑、香川真司、大久保嘉人らを長く追いかけ、W杯は2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会、ラグビーW杯はカーワンジャパンの2011年ニュージーランド大会を現地で取材。2017年からゴルフ担当で渋野日向子、河本結と力(りき)の姉弟はアマチュアの頃から取材した。2019年末から報道部デスク。
大久保嘉人氏の自伝「情熱を貫く」(朝日新聞出版)を編集協力、著書に「伏見工業伝説」(文芸春秋)がある。
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