【イチロー大相撲〈44〉】おかみさんと歩んだ12年 安治川親方の二人三脚と今後

元関脇安美錦の安治川部屋は、12月に部屋創設2周年を迎えます。

11月の九州場所では、安青錦(あおにしき、20)がスピード出世を果たし、新十両となります。

これまで、安治川親方はおかみさんの絵莉さんと歩みを進めてきました。

信頼し合う二人に話を聞きました。

大相撲

最初の関取が誕生した

お祝いムードはほどほどに、安治川親方は次に目を向けていた。

9月の秋場所。西幕下4枚目の安青錦は6勝1敗の好成績を挙げた。

ウクライナ出身の二十歳は、初土俵から1度も負け越すことなく、所要7場所で新十両への出世を決めた。秋場所後の9月25日、昇進の記者会見が行われた。

新十両に昇進した安青錦(左)は、安治川親方と笑顔で握手を交わす(2024年9月25日撮影)

新十両に昇進した安青錦(左)は、安治川親方と笑顔で握手を交わす(2024年9月25日撮影)

それから約2週間後、安治川親方の話をうかがうため、東京都江東区石島の安治川部屋を訪れた。

部屋に入ると、後援者らから贈られた胡蝶蘭が上がり座敷に並んでいた。その場は華やいでいたが、安治川親方は落ち着いていた。

「うれしい半面、本当に今、ここからっていう気持ちです。うれしい気持ちはもう、場所休み中で終わりましたよ」

看板の前で写真に納まる新十両の安青錦(2024年9月25日撮影)

看板の前で写真に納まる新十両の安青錦(2024年9月25日撮影)

安治川部屋の力士と秋場所成績


西幕下4枚目安青錦6勝1敗
西幕下51枚目安大翔4勝3敗
東三段目8枚目安響3勝4敗
西三段目56枚目安強羅6勝1敗
東序二段34枚目安櫻4勝3敗
東序二段53枚目安琉海6勝1敗
安治川部屋の各段優勝経験者。安大翔(左)は昨年7月に序ノ口優勝、9月に序二段優勝。安青錦(中央)は昨年11月に序ノ口優勝、今年1月に序二段優勝。安響(右)は、今年1月に序ノ口優勝した。

安治川部屋の各段優勝経験者。安大翔(左)は昨年7月に序ノ口優勝、9月に序二段優勝。安青錦(中央)は昨年11月に序ノ口優勝、今年1月に序二段優勝。安響(右)は、今年1月に序ノ口優勝した。

現在、安治川部屋の力士は6人と呼び出しの安希隆(あきたか)の合計7人。昨年7月の名古屋場所で安大翔が序ノ口優勝を果たすと、4場所連続で格段優勝力士が誕生した。新しい部屋は急成長している。

安青錦との「縁」

関取を1人輩出することが目標ではない。その先を見据えるからこそ、安治川親方は「ここからっていう気持ち」と言った。

現在、日本相撲協会の内規では、外国出身力士は1部屋1人。そのため、新たな部屋ができると、有望な外国出身者から売り込みが殺到する。

安治川部屋もそうだった。

安治川部屋の部屋開きが行われた時の写真。後列右から安治川親方、おかみさん。前列は右から呼び出しの安希隆、所属力士の安大翔、安青錦、安櫻、安強羅(2023年6月撮影)

安治川部屋の部屋開きが行われた時の写真。後列右から安治川親方、おかみさん。前列は右から呼び出しの安希隆、所属力士の安大翔、安青錦、安櫻、安強羅(2023年6月撮影)

もともと、安治川親方は、外国人を採用する考えはなかった。

「初めは受け入れる気はありませんでした。断っていました。まずは、部屋の基盤を作らないといけないから。下の者に教える人を育てなきゃいけないので」

ところが、信頼できる人からの勧めで考えを変えた。

報徳学園の元監督、福田耕治さんから紹介があった。それがダニーロ・ヤブグシン、現在の安青錦だ。

「私が高校の時から(福田氏を)知っていて、その方が勧めてくれたので、じゃあ1度お会いしましょうかと。ただ話を聞くだけと思って会ったんですけど、いい眼をしていた。真っすぐな眼をしていた、すごく相撲が好きだというい気持ちが伝わりました」

ダニーロは幼少期から相撲を始め、2019年世界ジュニア選手権中量級3位の実力者。ロシアによるミサイル攻撃から逃れるため、両親とともにドイツに避難、自身は角界入りを目指すため、2022年4月に来日し、関西大などで稽古を積んでいるタイミングだった。

安青錦が新弟子検査を受けた時の写真(2023年7月3日撮影)

安青錦が新弟子検査を受けた時の写真(2023年7月3日撮影)

安治川親方が、ダニーロを見立てた眼は間違いなかった。

「『これは違う』と言ったこともすぐに気づく。私が『ん?』と思った表情も読み取る。分からなかったら聞いてくる。そこはすごくしっかりしてくれている」

師弟関係については「日本に来た経緯とか、出会ったタイミングとか。そういう面では、出会うべくして、出会ったのかな」と、口にした。

ここまで順調に見える安治川部屋だが、どこの部屋でもあるような問題がなかったわけではない。若い子たちには、若いなりの悩みもある。

潤滑油となってきたのが、おかみさんだ。

「おかみにはいろいろと相談もしているみたいで…。どうでもいいことを相談してみたり(笑い)」(安治川親方)。

上がり座敷で、安治川親方に話を聞いていると、おかみさんが所用で降りてきた。

そのまま、話にも加わってもらった。

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。