大相撲の言葉が一般に定着した理由とは? 国語辞典編纂者・飯間浩明さんに聞いた
「軍配を上げる」「勇み足」「がっぷり四つ」…。もともとは大相撲用語だったはずが、一般に派生して定着している言葉があります。
どういう言葉が、一般に広まったのか。なぜ定着したのか。
国語辞典編纂(へんさん)者の飯間浩明さん(57)に聞きました。
大相撲
■このページに書いてあること
・大相撲から一般語になった3語を解説
・なぜ一般語に派生したのか
<例文> 当社にとっては、これが大一番だった。当社よりも事業規模が大きいライバルのX社と、当社のプレゼンが、クライアントの会議室で行われた。X社から厳しい指摘も受けたが、土俵際で踏ん張り、一枚上手の返答でうっちゃった。後日、クライアントからの受注を受けたのは当社だった。番狂わせの末の大金星だった。
やや強引な文章ではありますが、ビジネスにおける一場面の描写でもあります。大相撲由来の言葉は、一般社会でも多く使われています。
どんな言葉がいつごろから使われるようになったのでしょうか。なぜ大相撲から派生していったのでしょうか。
言葉の専門家、飯間さんに聞きました。
◆飯間浩明(いいま・ひろあき) 1967年(昭和42年)10月21日、香川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士課程単位取得。国語辞典編纂者。「三省堂国語辞典」編集委員。朝日新聞「be」で「街のB級言葉図鑑」を連載中。X(旧ツイッター)アカウントは@IIMA_Horoaki
飯間さんの仕事場にうかがうと、資料を3枚、用意してくれていました。
飯間氏「どういう言葉が定着しているか、3枚の紙にまとめました。これは、三省堂国語辞典にある相撲関連の言葉です。(1)の意味が相撲関連で、(2)に一般用法があるものを機械的に選び出してあります」
―結構ありますね
飯間氏「ただ、この中ではあまり使わないものもあるかもしれません。例えば、『軍配を上げる』『四つに組む』はいいとしても、例えば『小股すくい』の一般用法はどうでしょうか」
「小股すくい」の意外な意味
●こまた す▼くい[小股〈×掬い〉]―すくひ(名)(1)<<すもう>>相手のまたを内がわからすくい上げてたおすわざ。(2)相手のすきをねらって自分の利益をはかるやり方。(三省堂国語辞典第8版より)
飯間氏「(1)は相撲の技としての意味があります。(2)は例えば、『やつには、小股すくいを食わされた』などと使いますが、なんのこっちゃという気はしますよね」
―そういう意味もあるんですね
飯間氏「あるんです。現代語の辞書ですから、現代でも使う人はいるということです」
―この意味を知っている人は、少ないでしょうね
飯間氏「せっかくですので、調べてみましょう。三省堂国語辞典は歴史的なことが入っていないんですが、日本国語大辞典という辞書がありまして…。小学館から出ている全13巻の辞書なんですけど、昔の言葉から今の言葉までを歴史的に記述しています。
1880年の歌舞伎の脚本、日本晴伊賀報讐(にっぽんばれいがのあだうち)に『裏の裏行く政右衛門、小股掬ひを出し抜きしは』とあります。敵である政右衛門の計略を出し抜いたということです。明治時代に一般用法で使っていることが分かりますね」
軍配はもともと戦から
●ぐんばい 軍配を上げる[句](1)<<すもう>>行司が勝った力士のほうに軍配をさし上げ、勝ちを告げる。(2)判定して、一方が〈勝ちである/より正当・すぐれている〉と認める。「弁護士側の主張に―」[自]軍配が上がる。(三省堂国語辞典第8版より)
飯間氏「『軍配を上げる』は相撲由来であると言っていいと思います。さらにその前に、軍配は戦で使うものですから、戦の意味があったわけですね。
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1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。
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