連日、全国各地から中止の一報が流れるたびに、競輪関係者は肩を落とす毎日が続いている。

そんな悲観ムードを吹き飛ばそうと奮闘しているのが、来月にG1「日本選手権(ダービー)」の開催が控えている静岡競輪である。

静岡競輪場では厳重な感染対策のもと、予定通り17日にF2戦が開幕した。これは「日本選手権を開催する」という決意表明だ。

前検日の16日には日本選手権の会議が開かれ、開催に向けた意思統一が関係者の間で行われた。出席した日本競輪選手会静岡支部長の黒田直記(48)に現在の心境を語ってもらった。

ダービー開催へ奔走する静岡支部長の黒田直記
ダービー開催へ奔走する静岡支部長の黒田直記

「今、静岡への注目度は高い。開催することが正しいか、正しくないかは、何度も自問自答してきました」と前置きをした上で「それでも僕の立場でやらなきゃいけないのは、伊東競輪、静岡競輪、そして静岡県の選手を守ること」の結論に達したという。

黒田はここまで支部長代行を4年、支部長を4年務めてきた。その間には初めてのKEIRINグランプリ招致(18年)を陰で支えるという大仕事があった。この経験こそが確固たる信念を築いた。

「やってもやらなくても批判は出るでしょう。でも、やらなければ守れないものがある。試算したところ、無観客で開催すれば赤字になると出た。でも、もし赤字になったとしても、その経験はきっと来年のグランプリにつながります」

こう考えてからは、どうやったらやれるか? に集中して準備を進めている。

「山口幸二さん(日刊スポーツ評論家)もコラムで語っていたけれど、そもそも競輪は戦後復興の役目を担って立ち上がったもの。東北や熊本の震災の後でも役割はあった。今回だって開催することに大義はあるはず。このまま中止の連鎖で業界全体が衰退するのを見てはいられません」

16日には緊急事態宣言の対象地域が、静岡県をはじめ全都道府県に拡大された。「いつかは出ると思っていた。僕たちは変わらず、やれることをやるだけです」。こう言い切れるのは、心の中に明確な大義があるからだ。

前代未聞の状況下に「絶対」なんてことは言えない。しかし、静岡競輪の関係者は、開催の確率をより100%に近づけるために日々、感染対策に心血を注いでいる。【松井律】