最後の最後に、大仕事を成し遂げた。和田健太郎(39=千葉)がグランプリ(GP)初出場で初優勝を決め、大逆転で賞金王の座を射止めた。最終3角過ぎに内を突くと、逃げた脇本雄太(31=福井)を鮮やかに抜き去った。2着が脇本、3着には前年覇者の佐藤慎太郎(44=福島)が入り、3連単22万1650円はGP史上最高配当となった。

デビュー18年の苦労人が、初めて歓喜のゴールに飛び込んだ。最終バックで郡司が不発とみると、内にいた清水の後ろに瞬時にスイッチ。そして最終3角過ぎ、がら空きになったインを突くと、周りが止まったかのように自転車が進んだ。渾身(こんしん)のガッツポーズで雄たけびを上げた。それでも「信じられない。申し訳ないんですけど、まだ実感がないです」。心ここにあらず。それが偽らざる心境だった。

GP初出場Vは、史上11人目にして最高齢だ。また、G1ノンタイトルでのGP制覇となると、97年の山田裕仁(引退)04年小野俊之、06年有坂直樹に次いで4人目になる。松浦、脇本らタイトルホルダー、五輪代表を退けて、大逆転での賞金王の座に就いた。09年に同じくGP初出場Vを飾った同県の海老根恵太も「ないことはない、と思っていたけど、まさか取るとは…」と驚いたほどだ。

同じ平塚でヤングGPに出てから15年。自力時代はビッグ戦線でも苦戦を強いられた。だが、追い込みに転じたのと同時期に、南関の機動型が続々と育つ。その代表格が、今回タッグを組んだ郡司だ。「彼が南関のエースとなって相乗効果で引っ張り上げてくれた」と感謝を口にした。

信念がある。「僕の車券を買ってくれるお客さんのために、その日1日、1レースを頑張るだけ。それがGPだろうと何だろうと」。3連単は史上最高配当。コロナ禍で沈んだ20年、最後に和田を信じたファンを笑顔にした。そんな新チャンピオンは素朴で素直だ。来年1年間、1番車が確定することについても「位置取りとか責任とか、重圧でしかない」と苦笑い。1億円の使い道も「堅実に家のローンに充てる」と笑った。決して、大きなことは言わない。「いまさら気取っても仕方がない。GPを取って『変わった』と言われるのも嫌」。全てはファンのため。それが新王者の揺るぎないポリシーだ。【山本幸史】

◆和田健太郎(わだ・けんたろう)1981年(昭56)5月27日生まれ、千葉・酒々井町出身。千葉経済大付属高卒。競輪学校(現養成所)87期生で在校成績は29位。02年8月4日弥彦でデビュー(1着、4着、9着)。18年函館でG3初制覇。G1、G2を通じて今回が初タイトル。通算1624戦305勝。通算獲得賞金は5億5904万8000円。172センチ、78キロ。血液型A。