今年の欧州チャンピオンズリーグ(CL)は、数々の劇的な逆転劇を演出したレアル・マドリードの14回目の優勝で幕を閉じました。

そのレアル・マドリードに移籍が決定的とされていたパリ・サンジェルマン(PSG)所属のフランス代表エムバペですが、最後の最後に「移籍せず」ということで大きなニュースとなりました。この夏注目の大型移籍になるかと思われましたが、ファンの予想を良い意味でも悪い意味でも「裏切った」形となり、世界中のスポーツ・メディアのトップを飾ったのではないでしょうか。

現地の報道によると、PSGはエムバペに対し、常にレアルの提示額の1.2倍という金額を提示し、さらにチーム作りの部分に関わるプロジェクトなど、過去にないほどの大きなオファーがあったようです。一方レアルにしてみれば、あくまでもクラブが1番で、それを超えるような選手の契約は基本的には考えません。ここに大きな差異がありました。

これに対し「UEFA(欧州サッカー連盟)とフランスの経済規制に反している」とリーガ会長のテバス氏が非難しており、PSGが前年度に赤字を計上していた(FIFAファイナンシャルフェアプレー違反に該当もコロナ禍で許容された)にもかかわらず、大金を捻出してきた部分を指摘しています。

今回はPSGの財政面からこのエムバペ契約延長の裏側を覗いてみたいと思います。現地の報道によると、PSGの売上ベースはコロナ前の18-19シーズンで6億3600万ユーロ(当時のレートで約800億円)ありました。この後コロナの蔓延があり、8月にメッシを獲得しましたが、19-20シーズン売上は前年比約1億ユーロダウン(15%ダウン)の5億4060万ユーロとありますが、リーグ2位のリヨンで2億2080万ユーロであることをみると非常に大きな差があることがよくわかります。一方、これに対してPSGの人件費は18-19シーズンで約3億3700万ユーロ、19-20シーズンで4億1400万ユーロと上昇しており、クラブの最高額を記録していました。

リーグ・アンの人件費額をランキングで見てみると2位のリヨンで1億3200万ユーロ、3位モナコで1億2100万ユーロ、マルセイユが1億1800万ユーロ。1位と2位との差は売上同様圧倒的な差があり、4億1400万ユーロの人件費は実はヨーロッパ全体で見ても1位バルセロナの4億4300万ユーロに次ぐ2番目という大きさです。マンチェスターCでも4億100万ユーロ、レアルは3億7800万ユーロといった具合です。

レアルの売上を見てみると、19-20シーズンはコロナで7億1500万ユーロ前後まで落ち込んではおりますが、コロナ前で7億5000万ユーロ前後の数字ですから、このあたりの比較でもPSGの売上・人件費の割合はかなり厳しいものとなっている様子が見て取れます。


コロナ前

18-19  PSG     売上6億3600万ユーロ  人件費3億3700万ユーロ  (売上対比58.3%)

18-19  レアル  売上7億5000万ユーロ  人件費3億7800万ユーロ  (売上対比50.4%)

コロナ後

19-20  PSG    売上5億4060万ユーロ  人件費4億1400万ユーロ  (売上対比76.5%)

19-20  レアル  売上7億1500万ユーロ    人件費4億1100万ユーロ  (売上対比57.4%)


このように比較すると明らかにPSGの人件費過多の状況であることがわかり、テバス会長が憤りを感じることも理解できます。この状況から、さらにスペインはリーガ独自のサラリーキャップ制度があります(売上に対して人件費を70%以下にしなければならない)。レアル・マドリードは少し余裕があるので、この分を活用してエムバペに注ぎ込む予定だったと想像できます。それにしても売上で1億5000万ユーロ近く差がありながら、その中で人件費の額がほとんど変わらないことを知ると、一体どうなっているのか? と言わざるを得ません。今回エムバペにはレアルの提示額よりも1.2倍の給与をコミットしており人件費率はより大きなものになってしまいます。

何よりもPSGの会長自身がUEFAの評議委員に入り、内部情報を巧みに操っていると指摘されています。実質的にチームの代表者とも言える立場の人間がUEFAの評議委員に選出されていることには疑問符がつきます。いずれにしろ、サッカーをお金で買うことができるのかどうか、ここからのPSGの活躍ぶりには注目していきたいと思います。近い将来、アンチェロッティが監督でジダンがコーチ、そしてFWにC・ロナウドなどというメンバー構成になっていたりして…。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」