ドイツ戦勝利の興奮は続いてるが、連日報じられる「ドーハの歓喜」には違和感がある。チームの目標はベスト8以上。達成して初めて「歓喜」だろう。「ドーハの悲劇」はイラクとの引き分けではなく、W杯出場を逃したこと。目標達成まで「歓喜」は早い。

過去のトラウマか、いろいろなシナリオを考えてしまう。最高なのは27日に日本とスペインが勝つこと。両チームが突破し、最終戦は1位か2位を決めるだけになる。例え日本が引き分けでも、スペインがドイツに勝てば、かなり有利だ。

厄介なのはドイツがスペインに勝った場合だ。2勝1敗で両強国との三つ巴(どもえ)になる可能性が出てくる。得失点差で不利な状況になれば、スペイン戦こそ「絶対に負けられない」。コスタリカに勝っても「1次リーグ突破」で一安心か「スペイン戦次第」で緊張感が続くかは、9時間後のドイツ-スペイン戦まで分からないというわけだ。

もちろん、まずはコスタリカに勝つこと。得失点差を考えれば10点くらいとって勝つのがベストだが、現実的ではない。いや、負ける可能性もある。相手は2大会前に「8強の景色」を見たチーム。所属で出番がなく「試合感が問題」とされたGKナバスも、7失点で勘を戻しているかもしれない。歴史的勝利の後だけに、余計に心配になる。

トラウマがある。96年アトランタ五輪、日本は1次リーグ初戦で王国ブラジルを破ったが、2勝1敗で三つ巴となって得失点差で1次リーグ敗退した。大金星にチームも平常心を失ったというが、それ以上に「マイアミの奇跡だ」と舞い上がっていたのは、我々メディアやサポーターだった。

あの「ドーハの悲劇」でもあった。最終イラク戦前の韓国戦にカズのゴールで勝利。アジア予選で初めて韓国を破り、首位(2位までに出場権)に浮上し「W杯だ」と大騒ぎになった。ラモスだけが「まだ終わってない。1試合だけで、一喜一憂してる場合じゃないよ」と選手や報道陣の祝勝ムードを一喝したが、その不安は的中してしまった。

いずれも、ほとんどの選手が生まれる前。当時とは経験値も違うし、ドイツ戦後のインタビューでも満足した様子はない。何より、森保監督が29年前を経験している。「最後まで喜ばない」のは「最後まであきらめない」のと同じことだ。

まず、コスタリカに勝つことだ。98年フランス大会で32チームによる現方式となって以来、1次リーグ2勝で決勝トーナメント進出を逃したチームはない。コスタリカにさえ勝てば、16強は確実と思いたい。

長い歴史で、1次リーグ2勝で敗退したのは82年スペイン大会のアルジェリアだけ。先に2勝1敗として翌日の試合の結果を待ったが、西ドイツが1-0で勝ってオーストリアとともに2次リーグ(当時)進出。両者は否定しているが、1得点した後はともにパスを回すだけで「談合」「史上最悪の試合」といわれた。

結局、82年の西ドイツは勝ち進んで準優勝。アルジェリアは初戦で西ドイツを2-1と破っていたから、怒りは相当だったはずだ。この試合は開催地から「ヒホンの恥」といわれ、1次リーグ最終戦を同時開始するきっかけになった。

三つ巴まで考えるのは、日本がスペインやドイツと同じ土俵で戦っているという証拠。W杯を戦っている感じがうれしい。ただ、まずは決勝トーナメント進出。27日に日本を応援した後、28日未明にはスペインを応援しよう。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)