「アトランタの悲劇」とでも呼ぶまいか、エジプトが2-0から大逆転負けした。あらためてサッカー界ではよく「2-0」は危ないスコアと言われてきた。
例えば18年ロシア大会で、日本がベルギーに敗れた「ロストフの悲劇」は記憶に新しいところだろう。一般的な見解として成立しているのは、2点差となったところで油断や慢心が生まれるという認識だと思う。
実際にJリーグを取材していても「2-0は一番危ないスコアだから」という指導者の言葉を聞いたことがある。
では実際にどうなのか? 19年にJリーグは「2-0」がどういう結末に陥ったのか、データスタジアム社の分析をもって紹介している。J1~J3の1337試合(4年分)から抽出した結果は、勝利が1229試合(91・9%)、引き分けが69試合(5・2%)、敗北が39試合(2・9%)。つまり逆転負けは2・9%にすぎなかった。
W杯の事例を見ても「ロストフの悲劇」こそ有名だが、それ以前なら1954年大会決勝でドイツがハンガリーを破った「ベルンの奇跡」こそ思いつくが、極めて少ない。確率的には3%ほどの線だろう。
それでも「2-0は危ない」と今も言われるのは、成功例よりも失敗例の方が印象が強くなる。人間の脳にはリスクを回避しようとする仕組みがあり、そこに「バイアス(先入観や偏見)」がかかってくる。
ただ自分の見解としては「2-0が危ない」のでなく、「1点差に迫られたことが危ない」のだと思う。
「逃げる側の心理」というものがある。その内面に起きる心理メカニズムとして、恐怖やストレスを抱え、視野が狭くなるということ。平たく言えば、気持ちに余裕がなくなれば、冷静なら見えているものさえ見えなくなる。一種のパニックに近い。
この日のエジプトに置き換えてみれば、逃げよう(守ろう)という意識が働き、前へ積極的に仕掛ける守備でなく、後ろに構えた。そこへ、後のないアルゼンチンが見せた火事場のクソ力。1点が入ったことで、より逃げる側の心理は強まったといえる。
人間の心に浮き沈みがあるように、サッカーも11人の人間の営みだ。チームとしても浮き沈み(心の揺らぎ)があり、それがゲームの流れを左右している。
エジプトとしては、守るのでなくもう1点で仕留めに行きたかった。ただ、そうは言っても机上論にすぎない。言うは易し行うは難し、である。
結局のところ、メッシのいるアルゼンチンが強かったということに帰結する。【佐藤隆志】



